一悶着あったんです。


時刻は21時。バイトが終わり少し寄り道をしていたら彼に宣言した時間よりも遅くなってしまった。私はまずゆっくり自宅のドアを開ける、鍵はかかってたから出ていったということはなさそうだ……。
ガチャと音を立てた扉にそおっと中の様子を伺う、うん何もなさそうかな。ほっと息をつき肩の力を抜くと私は靴を脱ぎ部屋へと進んだ。


「おかえり」
「た、ただいま」


出迎えてくれるのはイケメンな彼氏……じゃなくて、なんでか朝私の布団に入っていた中学生(仮)の男の子。お互い状況はよく分からないものの、悪い人じゃない気がしてとりあえず家に居てと言ったけれど


「ホントにいた……」
「なんで保おけてるんですか……苗字さんが家におれって言ったんやないですか」
「ん?ん?ちょ、ちょっと待ってナンデ敬語?」


今朝は普通に喋っていたはずの忍足くんに違和感が隠せずつい突っ込んでしまう。彼は頬をポリポリ掻きながら眉をひそめ


「いや、朝は俺も混乱しとったところがあって、よう考えへんでも年上の人へは敬語使わなあかんやろ、て」
「えーいいよそんな……あの、なんか違和感凄いし」
「ほんまサラッと失礼なこと言うな自分」


そう言いながらも笑う忍足にやはりそっちの方がいいなぁと思いながら私は部屋に入った時から気になっていたことを聞いてみる


「ところでさっきからなんか凄くいい匂いするんだけど……」
「ああ、もう出来てるで。苗字さん帰ってきたら疲れとるんちゃうかおもて……あ、冷蔵庫の中身勝手につこたけど平気やろか?」
「え、うん平気だけど……うわぁ!」


喋りながらもキッチンに向かい既に出来ているであろうフライパンの蓋を開けると、先程よりもいっそう食欲を刺激する美味しそうな匂いが部屋に満ちる。


「凄い!美味しそう……忍足くん料理上手なんだね」
「別に凝ったもんちゃうで?学校で家庭科とかあるし、家でもたまに手伝いやらされるもんやから基礎くらいはできるだけや」
「凝る凝らないじゃないでしょ、作ってくれたって事が嬉しいし」
「そんなら良かったわ……ほら机に持ってくから苗字さんはご飯よそってや」
「はーい」


どっちが年上か分からないようなやり取りにふふっと笑ってしまう。
準備が出来たら2人で向かい合うように座り手を合わせる。食事をしながらお昼に忍足くんが何をしていたか聞き、そこで彼がこの世界の人間じゃないかもしれないと聞かされる。正直信じられるわけのない話だけど、彼がそんなに嘘をつく理由も見つからない……。私は忍足くんの言葉を信じてみようと思う。今の所私に危害を加えたりもしていないし、美味しいご飯も作ってくれたし悪い人じゃないと思うし。


「ふぅ、ごちそうさまでした」
「おそまつさんでした」
「ふふ、誰かと家でご飯食べるのなんて久しぶりだなぁ……ありがとうね忍足くん」
「そうなん?一人暮らし長いんや?」
「あ、ううん。一人暮らし自体は4ヶ月くらいかな。ただ実家にいた時もなかなか家族と時間が合わなくてひとりご飯が多かったんだよね」


私は食べ終わった食器を流しへ運びながら同じく自分で使った食器を持ってきてくれた忍足くんに声をかける


「忍足くん、良かったらシャワーどうぞ」
「……え、流石にそれは」
「でもそのまま寝るのいやじゃない?あ。そーだ!」


私は駆け足で玄関に置きっぱなしだった買い物袋を取りに行き忍足くんに渡す。


「これ着替えね。一応Lサイズにしたから小さいってことはないと思うんだけど」
「まさか買ってきてくれたん……?」
「ないと困るかなぁて、ずっと寝巻きのままじゃ忍足くんも嫌でしょ?」
「自分、お人好しすぎるで……」
「そ、そんなことないと思うけど……ほらほらシャワー浴びてきちゃいなよ!」


忍足くんの視線に耐えきれず浴室へと彼の背中を押す。自分でも買ってる時馬鹿だなぁとは思っていた。突然現れた見ず知らずの男子中学生(仮)の衣類を買ってるなんて、と。それでも買ってしまったのだから仕方ない。
私は誰にするでもなく言い訳をしながら洗い物を済ませ、自分の着替えやタオルを用意する。
そう言えば忍足くんタオル持っていってないかも?まだ入ってそんなに経ってないし今持ってけば大丈夫かな?

私は浴室へ行き気持ちばかりのノックをして扉を開けた。


「ちょ」
「へ?」


お約束展開すぎる……私が扉を開けるとちょうど忍足くんが浴室から出てきたところで。湯気があるにしろバッチリ上半身が見えてしまい……


「こ、ごめんね!!これ、タオル!置いておくから!!」


そう言って持っていたタオルを忍足くんの顔面に叩き込んで、扉を閉める。
びっくりした……それは忍足くんも同じだろうけど、ごめん忍足くん……。火照る頬を両手で包み必死に普通の顔に戻れ〜と念じるが、努力虚しく火照りが引く前に忍足くんが戻ってくる


「シャワーありがとうな……て苗字さん大丈夫かいな」
「うぅ……先程は失礼シマシタ」
「俺は別に気にしてへんよ。上半身くらい、何やったらもっぺん見る?」
「なっ?!見ません!」
「あーでもお触りは禁止なんやわぁ」
「もー!!私もシャワー浴びてくる!」


忍足くんは完全に面白がってるな……。私はこれ以上からかわれないように浴室へ向かいシャワーを浴びてしまう。
ドライヤーで髪を乾かしリビングへ戻ると忍足くんがおらず、ベランダへと続く窓から風が吹いていた。
そっと近づくと未だ濡れた髪の忍足くんが外にいて、顔は見えないけどその背中は何だが小さく見える。おかしいよね私よりも身長も身体も大きいのに……もし私が忍足くんの立場だったら、急に知らないところで一人……それは凄く怖いと思う。

一度キッチンへ戻りマグカップを2つ持ってベランダへ戻る。私に気づいた忍足くんがこちらを振り向き何か言う前に先程入れたばかりのホットミルクを渡した


「体冷えちゃうよ」
「……おーきに」
「ドライヤー使ってよかったのに」
「俺、自然乾燥派やねん」
「ふふ、そこは男の子らしいなぁ。でも風邪ひかないようにね?」
「平気や、体鍛えてるし。苗字さんかて見たやろ?」
「確かに綺麗に筋肉がつい……」
「ふーん、結構バッチリ見とったんやなぁ」


こちらをニヤニヤしながら見る忍足くんと目が合い、またからかわれたらしい。
やられっぱなしは何だか悔しくて、半分くらい減った私の分のマグカップを忍足くんに渡し両手を塞いでから、彼が肩にかけっぱなしにしているタオルを取り髪をガシガシと拭く


「大人をからかった罰だよ〜っ」
「ちょ、危ないって」
「ふふふ、マグカップ落とさないように気をつけてね」


あらかた水分が抜けたところでタオルを肩に掛け直し、ぐしゃぐしゃになった髪を手ぐしで整える。自然乾燥なのにこのキューティクルかぁ……イケメンは髪質まで違うのかな。
満足してマグカップを受け取ると風が冷たくなってきた事に気づき2人で部屋へ戻った。
何となしに時計を見れば時刻は24時になろうとしている。そろそろ寝ないと……あ。


「忍足くん、そろそろ寝ようか?」
「ん?あぁもうそんな時間なんや」


隣の寝室へ向かい、軽くベッドを整える。
さらにクローゼットから夏用の薄い掛け布団を出し


「忍足くんはベッドで寝てね、私は隣で寝るから」
「え、俺が隣で寝るで?居座ってる身やし」
「いやいや、年下の子を床で寝かせるわけにはいかないよ!いいからベッド使って、ね?」
「せやけど俺かて部屋の住人床で寝かすのいややわ……それに苗字さんは女の子やし、体冷やしたりしたらあかんのやろ。俺は丈夫にできてるし大丈夫やから」
「それなら私だって丈夫にできてるよ〜今年入って1回も風邪ひいてないし」


お互いなかなかひかない……するとこのままでは埒が明かないと思ったのか忍足くんが私の肩を掴みベッドの方へ押される
私はえ?とかあの、なんて無意味な言葉しか出てこなくて気がつけば2人でベッドに入っていた。


「ほなこれなら問題ないやろ。ちょっと狭いかもしれんけど、朝は一緒に寝とったんやし」
「……ひゃっ?!い、いいわけないよねっ!!ちょ、忍足くん!」
「はーい苗字さん暴れへんのあかり消すで〜」
「うぅ、こんなはずじゃ……忍足くんのばか」
「こら関西人に馬鹿はあかんやろアホにしといてや」


というか、なんでうちのシステム使いこなしてるの?!
忍足くんは私がベッドから出ないようにと肩を抱き密着している。
寝れるわけないよね!!?
私の心臓はさっきから煩いくらいバックンバックン鳴っていて、これはいかん……相手は中学生だよ!年下!子供!落ち着け私……。まだ少し鼓動は早いけど努力のかいあって、と言うか朝から色々あったおかげで身体は疲れていたようで、暫くすると睡魔がやってくる。
目を閉じれば私のとは別の鼓動も聞こえて、
ドクンドクンという鼓動の音には安眠効果があるとか聞いたことあるかも……
忍足くんの体温と鼓動にいつの間にか私は眠りに落ちていた。





先程まで慌てて俺の腕から抜け出そうともがいてた苗字さんが大人しくなった。見てみればすっかり寝入ってる無防備な様子に笑みが漏れる。


「おやすみ」


そのままそっと肩を押さえ込んでた腕をどけベッドから出ようとしたが、引っ張られる感覚に胸元を見ればガッチリと掴んでる手があって……


「えー……」


別に起きてるわけではなさそうだから無意識だろう……ホンマに大丈夫かいなこの人……無防備に可愛すぎる気がする。
年上とは思えないほど幼い寝顔を見ながらため息を吐いた。
本当は彼女が眠ったあとはひっそり抜け出し隣で寝る算段だったのだが、このままではそうもいかない。
俺は諦めて再びベッドに寝直す。シングルのベッドではどうしても密着することになってしまい、服越しに触れる彼女の体温にいつもより鼓動が早まるがどこかで安心感もあり、静かな部屋に彼女の寝息と自分の鼓動だけが聞こえる……その音を聞いていると自然と俺の瞼も下がり、俺はゆっくりと眠りについた。



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