太陽がちょうど真上にくる時間帯。容赦なく降りそそぐ日差しの眩しさに、目を細めた。
荷物番から解放された峯さんに声をかけて、一緒に海辺を散策することになった。ただでさえ近寄りがたいのに、サングラスをかけた彼は、表情が読み取れなくて怖い。でも、誘いを二つ返事でOKしてくれたので、決して機嫌は悪くないと思う。
海の家の周辺には、海水浴客が使うためのテーブルが数多く設置されている。その中の一つに座って、ひと休みしながら海を眺めた。
中央に備え付けられたパラソルのおかげで日陰になっているのに、彼はなぜかサングラスをかけたままだ。
「それ、外してほしいな」
「どうしてだ」
「峯さんの顔が見たいから」
少し間を空けてから、サングラスを外してテーブルに置いた。遮るものがなくなって、鋭い目がまっすぐに私を見つめた。
「あの、今日、晴れてよかったね」
「?…ああ」
峯さんが目線をそらさないせいで、緊張して脈絡のないことを言ってしまった。怪訝な顔をした彼に、飲み物を買ってきますと伝えてその場を離れた。
*
「なんだこれは…」
海の家で買ったオレンジジュースには、宝石を模した形の氷と、カップル用のストローが浮かんでいた。
「二人で飲むためのストローだけど」
「そんなことはわかってる」
たぶん彼は、なぜこのストローを選んだのかと聞きたいのだ。あえて質問には答えず、両手でグラスを持ち上げた。
「ハート型でかわいいでしょ」
「同時に飲むのか?」
「そうよ。はい」
唇にストローを近づけると、仕方なさそうな表情でそれを口に入れた。数センチ先に峯さんの顔がある状態で、どきどきしながらオレンジジュースを飲んだ。
「美味しい」
「……」
「こういうの嫌だった?」
「これでも楽しんでいるが」
「本当に?」
私の顔を見て、峯さんが頷いた。到底楽しんでいるようには見えない。でも、表情が変わらないのはいつものことだし、社交辞令ではなく本音を言っているんだと思う。
「私も、峯さんと一緒にいられて楽しい」
もう一度ジュースを飲もうとした時、間に置いたグラスがずらされた。峯さんの顔が近づいて、オレンジの味の冷たい唇が重なった。不意打ちでキスされたことに驚いて、長い睫毛を見つめたまま固まった。
触れていたのは一瞬で、目を閉じるよりも先に唇が離れた。
「峯さん」
「なんだ」
「人、いっぱいいるけど」
「…気にするな」
周囲の人達は知り合いでないとはいえ、人前で大胆なことをする峯さんが信じられなかった。数組のカップルがこちらを見ていることに気づいて、途端に恥ずかしくなった。
涼しい顔をしていた彼も、次第に居心地が悪くなったようで、ジュースを飲み終わると再びサングラスをかけて席を立った。
来た道と逆の方向を進んでいく背中に、どうしたのと尋ねると、かろうじて聞き取れるくらいの声が耳に入った。
「二人になりたい」
「え…」
「唯子は?」
「私も…二人きりがいい」
私の手をとって歩き出した峯さんは、少し口角が上がっていた。満足のいく返事ができたみたいだ。
サンオイルを塗ってくれた時はたまたまだと思ったけれど、今日の峯さんは、やたらと私に触れたがる。
「くっつきたい気分なの?」
「そうだな」
「峯さん、かわいい」
褒めたつもりの『かわいい』という言葉は気に食わなかったようで、むっとした顔に戻ってしまった。
二人きりになったら、珍しく甘えたな彼をたくさんからかってみよう。もちろん、怒らせてしまわない程度に。
2018.8.9
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