「腹減ったなぁ。海の家に行こうぜ」
「あかんて桐生ちゃん!ここまで冷え冷えを維持したんやから、先にスイカ割りせんと」
「真島さん…まさか、その金属バットでやらないですよね?」
「大吾ちゃん。スイカ割りといったらバットやろが」
「それは、そうかもしれませんけど」

普段から暴れまわっている彼らを見ているせいで、平和なはずのスイカ割りというイベントに不穏な空気を感じてしまう。スイカを大事そうに抱えた真島さんが走っていって、その後ろを桐生さんと大吾さんが追いかけた。

「向こうでやってるから、準備ができたら唯子も来てくれ」
「うん!わかった」

いつになく楽しそうな顔をした桐生さんにそう言われて、頷いた。
パラソルを立てた場所へ戻ると、たくさん積み上がった荷物のそばに、腕を組んだ峯さんが座っていた。

「峯さん、これって…」
「荷物番だ」

みんなが貴重品や荷物を置いていったので、残された峯さんがそれらを見張ることになって、パラソルから動けなくなったらしい。彼は東城会の金庫番だけど、遊びに出かけた時までそれらしい役割をしているなんて、なんだかおかしかった。

「はあ、みんな遊びに行っちゃうなんて」
「気にするな。荷物は見ておく」

峯さんはなんとも思っていないみたいで、文庫本を取り出して読み始めた。彼が自分の世界に入ってしまったので、私はその場を離れてスイカ割りを見に行った。
子供みたいに夢中になっているみんなの様子を楽しんで、波打ち際を散歩してからパラソルに戻った。峯さんは、最初と変わらない姿勢のまま荷物番を続けていた。

「私、交代するよ。峯さん泳いできて」
「いや、ここでいい。日に焼けたくない」
「あ…そう」
「唯子こそ泳いできたらどうだ」
「私はいいの。小麦色になりたいから」

鞄からサンオイルの容器を取り出して、腕と足に塗り広げた。背中に刺さるような視線を感じて振り返ると、すぐ後ろに移動していた峯さんと目が合った。

「背中は一人で塗りづらいだろ」
「いいの?それじゃ、お言葉に甘えて」

日焼け用に持参したマットの上にうつ伏せになると、すぐに大きな手が背中を撫でた。人に塗ってもらうのは初めてで、マッサージされているみたいで気持ちがよかった。

「んー…峯さんあったかい」

降り注ぐ太陽と、ときどき吹き抜ける海風。背中を行き来する手の温かさが心地よくて、眠くなってきた時だった。
太ももに移動した手が、脚の付け根まで這わされた。オイルを塗る指の動きがあやしく感じてしまうのは、私が意識しすぎているせいかもしれない。

「あの…」
「うん?」

際どい部分まで触られると、面積の小さい水着がずれてしまいそうで不安になる。そんな私の心配をよそに、指が水着の中に入り込んで直にお尻を撫でた。あの違和感は、やっぱり気のせいじゃなかった。

「…峯さんのむっつりスケベ」
「むっつりじゃない」
「えっ」

首を後ろに捻ると、いつもと同じ仏頂面がそこにあった。私から見えないところでにやにやしていると思ったのに、予想が外れた。

「スケベなのは認めるの?」
「ああ」

そんな真顔で言い切られて、どう反応すればいいのかわからなかった。

「家に帰るまで我慢してね」
「我慢できないのは唯子の方なんじゃないか?」
「もうっ…あとは自分でやるから」

サンオイルの容器を奪い取って移動した私を見て、ほんの一瞬、峯さんがつまらなさそうな顔をした。珍しいものを見られたので、今日は何か良いことがあるかもしれない。
それにしても、暑い。パラソルの下でじっとしてても汗をかくくらい暑いから、次に休憩する時は峯さんに飲み物を買ってきてあげようと思った。


2018.7.24

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