邸の庭は、色鮮やかな花と新緑に彩られていた。
邸内の人々の目を楽しませるその庭を横目に、小さな包みを抱えた朔弥は廊下を歩いていた。
「ああ、朔弥。ちょうど良かった」
廊下の突き当たりを曲がって現れた青年が、朔弥に気が付いて手を上げた。随分とにこやかで上機嫌なその様子に、朔弥は首を傾げる。
「何かあったのですか、克悠?」
「来客だよ」
にこにこと笑いながら朔弥の傍に歩み寄る克悠。ますます朔弥は首を傾げた。
一体来客とは誰のことなのか。それを問おうと口を開きかけた時、克悠が手掛かりをくれた。
「朔弥が喜ぶお客様だよ」
「……もしかして」
「きっと、正解だよ」
優しく笑う克悠を見上げると、行きなさいと言うように体をずらして道をあけてくれた。短く頷いて、足早に朔弥は彼の横をすり抜ける。
決して友人が多いとは言えない朔弥が喜ぶ客人。思い当たる人物は一人しかいなかった。
ほとんど小走りに近い状態になりながら、朔弥は客間の前までやってきた。もどかしげに襖を開けると、その先に居たのは思い浮かんだその人物だった。
「朔弥! 久しぶり!」
「燈華」
振り返った少女が嬉しそうに顔を輝かせる。朔弥も、彼女なりに表情を緩ませた。
「久しぶりですね。こちらには何か用事で?」
「うん。……って、用事があるのは兄さまで、私はただついてきただけなんだけど」
ぺろっと舌を出して笑う燈華に頷きを返し、朔弥は燈華に座るように勧めた。彼女が座ってから自身も腰を下ろし、手にしていた包みを置く。
「ちょうど良かったです。実は美味しいと評判のお団子を頂いたばかりで」
「そうなの? あ、本当だ。美味しそう」
開かれた包みの中から現れた串団子を見て、燈華が顔を輝かせて手を叩いた。
「頂いちゃっていいの?」
「はい。克悠達の分は先に取り分けてありますから」
どうぞ、と差し出してから、朔弥は「あ」と小さく声を上げた。
「お茶、淹れ直しますね」
「あ、大丈夫だよ?」
「いいえ」
厳しい顔で朔弥はかぶりを振った。
「せっかくの美味しいお団子です。美味しいお茶と一緒でなくては」
「……そっか。うん、そうだね」
あはは、と笑って燈華は頷く。ひとしきり笑った後、一緒に目元を細めた朔弥に悪戯っぽく片目を瞑ってみせる。
「じゃあ、とびっきり美味しいお茶をお願いね」
そして、久方ぶりの親友との語らいは、お茶の香りと共に始まりを告げたのだった。
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