哉北克悠が如月朔弥のことを知ったのは、彼女の姉のような存在である姫川咲良の話だった。戦姫という異能持ちの血筋を引いた朔弥が、悲しい過去を送っていたことを理解していた。特殊な力を持つということは悪くないが、それで忌み嫌う人間も少なくはない。
これまでの報告書を見つめながら、咲良の事情を聞く。朔弥の家族が死んでしまったこと、家族を失ったことで笑顔が消えてしまったこと。直接は見た事ないが、異能という言葉に不思議と引き寄せられた。
「もし、それが事実だったら私が引き取ろう」
咲良の事情を知った克悠は、筆を一旦止めて頷いた。書類を棚に立て、休憩しようと立ちあがる。背伸びしていると、咲良がお菓子とお茶を用意すると言って、部屋を後にする。そのとき、ドン、という強い音が響き渡った。それを聞いた克悠は慌てて屋敷を飛び出した。
音がした方へと走っていけば、建物が半壊し、人々はうずくまってそのまま動かない。偶然一緒にいた咲良も、有様を見て呆然としていた。
怯える人たちを見るよりも、克悠はその根源といえるものを見つめる。すぐに誰かの存在に気付いたのか、咲良は慌てて少女の方へと駆けだした。
「朔弥!」
けがはなかったか、何もされていないのか。咲良は朔弥と呼ばれた少女の周囲を見渡しては、心配をしている。朔弥は暗黙のまま、ただただ咲良を見つめていた。隣を見れば、朔良がいっていた少女がいた。表情から、心が不安定に揺れるのが見える。
「まだ心が落ち着かないのかな?」
見つめる先には、朔弥が立っている。怯えた人達を交互に見つめては、何かしてしまったことをうかがうことができる。克悠は立っている朔弥の傍へと歩み寄り、優しく肩を叩いた。驚くこともなく、無表情のまま此方を見つめている。
「事情は分からないけど、こっちへおいで」
克悠は朔弥の前で手を差し出す。大きくて優しい手を、彼女の小さな手が添えられていた。
克悠は戦姫のことについて調べだした。戦姫に関することなら、資料は数に限りがある。それでも調べようとしたのは、これから朔弥を引き取るにあたり、彼女のことを理解したい気持ちからである。
数週間にわたって調べた結果、戦姫というのはもともと奇術師に近い力を持っていた。それは誰かを傷つけるものではなく、自分を護るために使うものだと。いつからその力を人が疎むようになったのかは、今でも不明である。だが、朔弥が力を使ってしまったのは、きっと自分を護るためであろう。
事件の解決は、険しい道のりである。だが、安堵に人々が平和に暮らせるようになりたい。克悠はこれからのためのことを決意したのか、朔弥がいる部屋へと足を運んで行った。
終結
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