―――夢を、みた。 暗い山の中、深深と降る雪。……遥か昔の、哀しい記憶。 木に寄りかかって座り込む女性、その傍らで大粒の涙を流す幼子。 既に女の体からは熱が失われ、顔からは血の気が失せきっている。 それでも、子供は泣きながら呼び続ける。 ただひたすら、最愛の母の事を。 ―――かあさま、かあさま……っ!!――― 「……っ!!」 朔弥は、跳ね起きた。――胸が、つぶれそうな程に苦しい。 全身に嫌な汗が滲み、目尻には涙がうかんでいる。 「はぁっ……はぁっ………!」 ゆっくりと呼吸を落ち着かせようとするが、息の仕方を忘れたかのように、上手くいかない。 朔弥は胸を押さえて、うずくまる。 しばらくそのままで何とか呼吸を落ち着かせ、顔を上げた。 ここ最近、毎日のようにこの夢を見る。 一時期は、あまり見なかったのだが。 「ここ、は……痛っ……!」 意識が覚醒すると、思い出したかのように頭痛がした。 こめかみの辺りが、ずきずきと痛む。 (……たしか、あの時突然頭痛がして……倒れたんでしたね……) 痛む頭を押さえながら、辺りを見渡す。 目に映るのは、全く見知らぬ場所。何処かの民家の一室のようだ。 (ここは、何処なんでしょう……) 頭痛の所為か、上手く思考が働かない。 「あ……。」 ふと視線を落とすと、傍らに見慣れた柄の着物が置いてあるのが目に入った。 白い内着に、朱色の袴。 そして、薄紅色の桜が描かれている上着。 (私の……ですよね。もちろん……) 今の朔弥は、白い寝間着姿。 右手には、手の甲から手首にかけて包帯が巻いてある。 朔弥が自分で巻いたものだ。 別に、怪我をしている訳ではない。 包帯の下にあるのは―――自分の、弱さ。 「……私は、いつになったらまともに見られるようになるんでしょうね。 この、傷痕を……」 自嘲気味に小さく呟いてから、いや、と思い直した。 (きっと……この先ずっと、無理でしょうね。 私が弱い限り、ずっと……) 当然克悠や咲良は知っているが、傷ができた時から痕となった今でも、一度も誰かに見せることなく過ごしてきた。 そのため、この傷の事を知っている者は、朔弥を入れて四人のみ。 自分が隠したがっているのは、傷痕なのか、それとも己の弱さなのか。 どちらにせよ、今の自分には自らの"弱さ"と向き合う勇気など、無い――― 先程の夢の所為か、妙に過去の事を思い出す。 「……感傷に浸っている場合では、ありませんね。 さて、どうしましょうか……」 着替えて外に出ようかとも思ったが、やめた。 こんな状態では、まともに動くこともできない。危険なだけだ。 とりあえずもう少し眠ろうかと考えた時、部屋の襖が開いた。 そこにあったのは、 「……姉、様……?」 朔弥と共に玻瑠衣にいた筈の、咲良の姿だった。 (1/9) 戻 |