追儺録 | ナノ





―――岐ノ山を、過ぎた。

「……玻瑠衣に、帰ってきましたね」
「やっと、ね……」


朔弥と咲良は、感慨深げに嘆息する。
少しの間だけ何かを思い、朔弥は後ろの二人を振り返った。


「邸はもう少し先です。行きましょ「見つけましたよお二方ーっ!!」
・・・え?」

突如響いた声。
とても聞き覚えのある、その声は。

「雪宮殿……?」
「遼くん!?」


玻瑠衣の施政官、雪宮 遼のものだった。


「ようやく見つけましたよ如月殿、姫川殿!半月もどちらに行かれていたんです!?

おかげで克悠様が廃人になってしまわれたではありませんか!」

「……廃人……って、何?」
「……何となく、想像はつきます」

玻瑠衣の機能が停止しなかったのは、おそらく優秀な施政官達の努力ゆえだろう。
しかし今回朔弥達に非は無い。責められても困る。


「と、とりあえずさ遼くん。一旦邸に戻ろ?
事情は歩きながらでも軽く説明するからさ」

「……ついでに私達にも説明して欲しいんだが?
邸に"戻る"ってどういうことだ」
「俺も全く聞いていないぞ?」
「あ……。」

そういえば、蓮にも自分達のそういった事を話していなかったと思い出す。
いや、色々と面倒だから敢えて何も説明しなかった、というのが正しいのだが。

―――結局二人は、邸までの道中で皆からあらゆる説明を要求され、全てを洗いざらい話す羽目になった。


雪宮は半月の間の出来事に目を丸くして先程の叱責を詫び、蓮と慧那は二人の素性にただただ驚き、感心していた。


「姫川は女施政官、如月は施政官な上に長の養い子、ねぇ……大した出会いがあるもんだな」
「改めて聞くと、如月殿は不思議な経歴の持ち主ですよね……十一にして官試に及第とは」
「あのときは、少しでも長の役に立ちたいと必死でしたから。
……お役に立てているかは、分かりませんが」

「如月殿は、十分克悠様の助けになっておられますよ。
もちろん、自分達にも」

にっこりと屈託なく笑って言う雪宮に、朔弥は謙遜することなく素直に礼を言った。



「さあ、着きましたよ。此処が我等の仕事場、施政府及び克悠様方の邸です」
「うわ……さすがに大きいな」

邸を見上げ、嘆息する慧那。
蓮は言葉が出ないといった様子で口を開閉させている。

「私達の住まいと仕事場は、正確には別の建物ですけどね。繋がってはいません。
それで雪宮殿……長は、どちらに?」
「克悠様でしたら、一応執務室にいらっしゃいます。
今はすっかり魂が抜けておられますが……」
「……まったく、ほんと親馬鹿だよね克悠って。
口を開けば朔弥がいない、しか言わないでしょ?」

大きくため息をつき、咲良は呆れたように言う。昔からそうだ。
否定できない事実に雪宮は、流石によくご存知でと苦笑するしかなかった。


「……では、蓮と慧那殿は少し待っていて下さい」
「克悠に色々話つけてくるから」

「はいよ。まあ、ゆっくり話してこい」


二人は頷き、克悠の執務室の襖に手をかける。

「克悠、入りますよ」
「入るよー」


『……っ!?』

襖越しでも、部屋の主の驚愕が伝わってくる。

(さて、どんな反応が返ってくるのやら……)


二人は、返事を待つことなく襖を開けた。



無 


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