追儺録 | ナノ





「それにしても。
朔弥、全然起きないから心配したんだよ?」

「え……?」

「少なくとも、丸二日は眠っていたな」

「……丸、二日……?」

蓮に助けられてから丸二日ということは、実際はそれ以上眠っていたということ。

(……邸で、妙な薬でも盛られましたかね……?)

しかし、考えたところで答えなど出るはずもなく、思考の結果として頭の疼痛が増しただけだった。


「……そうだ。朔弥、何か食べる?」

「軽食程度ならば、すぐに出せるぞ」

(……そういえば……)

言われて、初めて朔弥は空腹を意識した。

体力も落ちていそうなので、とりあえず何か食べておくことにする。

「……では、いただけますか?」

「分かった。少し待っていろ」

蓮は立ち上がり、室を出ていった。


「……で?
朔弥、ほんとーに大丈夫なわけ?」

「……?

姉様、私は大丈……痛っ……!!」

大丈夫ですと言おうとした朔弥を見て、咲良は軽く朔弥の頭を小突く。

直後、疼痛が激痛に変わった。

思わず頭を押さえる朔弥。

咲良は、呆れたように溜息をついた。

「ほらやっぱり。頭痛いんでしょ。
そんなことでやせ我慢してどーすんの?」
「……やはり、姉様には適いませんか。
上手く隠したつもりだったんですけれどね……」

「さすがに分かるよ?ずーっと一緒に暮らしてきたんだから、さ。
昔っから朔弥は色んなこと我慢して隠しちゃうんだから。

ま、とにかく今日のところはご飯食べて寝てなさい。今は体調戻すのが先決」

「……はい」

素直に頷いた朔弥の頭を撫で、咲良は室を出ていった。



咲良と入れ代わるように、蓮が室に入ってくる。

手には、食事が載った盆。

「持ってきたぞ。このくらいなら、食べられそうか?」

「はい。ありがとうございます」

「……そうか。

食べおわったら、適当にその辺りに盆は置いておくといい」

「分かりました」

盆を差し出す蓮。

朔弥はそれを受けとる。が、体に思うように力が入らず、危うく盆を取り落としそうになった。

「わっ、と……」

「……大丈夫か?」

「あ、はい……大丈夫です」

心配ないと朔弥が言っても何か言いたそうに見ていた蓮だが、結局何も追及することなくただそうか、と言った。

「……では、俺は奥にいるから何かあったら呼ぶといい。
盆は後で下げに来る」

「分かりました。ありがとうございます」

朔弥の言葉に頷き、蓮は室を出て行った。



「……いただきます」

再び、一人になった室。

盆を横に置き、朔弥は食べ始めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

(それにしても―――)

箸を進めながら、考える。


今回の出来事は、あまりにも謎が多い。

朔弥と咲良が勾引かされた理由に、犯人の目的。

そして、どのようにして二人を邸から連れ去ったのか―――

(邸には克悠も他の施政官もいましたし、気付かれないようにというのは・・・・・・―――っ!!)

一つ……嫌な予感が頭をよぎる。

たとえ克悠や施政官達に見付かったとしても、二人を連れ去ることができる方法。

もしかすると、皆は―――

「っ……!」

頭を振って、その考えを振り払う。

――大丈夫。克悠達なら、大丈夫――

今すぐにでも邸に戻りたい気持ちを必死で抑える。……今の体では、戻るのは無理だ。

動きたくても動けない今の体を、恨めしく思った。


先程の、咲良の言葉を思い出す。

「"今は体調戻すのが先決"……ですか」

(確かに、そうですね……
……考えても仕方がありません。休みましょう……)

無心で残りの膳を食べきる。

一息つくと、眠気が襲ってきた。

食べた直後に寝るのは良くないなと思いつつ、朔弥は眠った。




「朔弥、克悠に文……って、寝てるのか」

朔弥が眠ったすぐ後、室に戻ってきた咲良。

しばらくその場を動かずに朔弥を見つめていたが、やがて眠る朔弥の傍らに座った。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

そっと、慈しむように朔弥の頬を撫でる。
その表情は、どこか憂いを帯びていた。


「……"戦姫"、か……」


―――小さな、小さな声で呟いた。




 


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