追儺録 | ナノ





「朔弥!起きたの、大丈夫?」

部屋に入って来た咲良に、状況を飲み込みきれない朔弥。

とりあえず、目の前の人物の確認をしようと思った。

「え……と。
……咲良姉様、ですよね?」

「こーんな美しいお姉様が他に何処にいるっていうの?」

「…………………。

……いつもの姉様ですね」

目の前にいるのは、確かに朔弥が知る咲良らしい。


安心した朔弥は、緊張の糸を少し緩める。

「それにしても……姉様、何故ここに?
というか、ここは一体……?」

「何故、って訊かれても困るけど……ここ、彩鍔(さいがく)みたいだね」

「……彩鍔?」

咲良の口から出た地名に、朔弥は眉をひそめた。

―――私の記憶が正しければ、確か……

「彩鍔って、朱架(しゅか)の彩鍔……ですよね?」

「みたいだね」

「……そう、ですか……」


朱架と就伯が隣り合わせの州とはいえ、彩鍔と玻瑠衣にはかなりの距離がある。

目が覚めてみれば、彩鍔とは―――


辿り着いた答えを、呟く。

「……何者かに、拐かされた?」
「多分……ね。起きたら山の中だったし。」
「山の中……そうですか……」

(……ということは、姉様が私をここまで運んで来たということですか……。)

なんとも情けない話だ。


しかし、今は自己嫌悪に陥っている場合ではない。

「……そうだ。此処は一体……?
民家、ですか?」

「ああ、えーっとね……

……そうだ。その前に、はい」

そう言って咲良は、朔弥の前に手を出す。

その手に握られていたのは、

「……眼帯?」

「そ。探しても見つからなかったから、町で調達してきた。
あった方がいいでしょ?」

「……そう、ですね。
ありがとうございます、姉様」

朔弥は眼帯を受け取り、右目を覆う。

それを見て満足そうに頷いた咲良は、

「……さて本題。

まあ簡単に言えば――」

と、咲良が口を開いた瞬間、

『入るぞ』

「……?」

襖の向こうから聞こえた声に、首を傾げる朔弥。

「ああ、来たね。説明の手間、少しは省けたかな。

どうぞー、入っていいよ」

咲良が応えると同時に、襖が開く。


入って来たのは、朔弥と同じ程の年に見える短髪の少年。

当然、朔弥はこの少年を知らない。

「声がしたから来てみたが・・・起きたみたいだな。
大丈夫か?」

「あ、はい……
……あの、貴方は?」

「俺か?俺は、蓮。
弦見 蓮だ。よろしくな」

朔弥の問いに、あっさりと答える蓮。

とりあえず悪人ではなさそうだと判断した朔弥は、名乗った。

「……私は、如月 朔弥と申します。
……助けて、下さったんですか?」

「んー……まあ、そうなるのか?

近くの山で咲良殿と出会い、困っていたようだからうちに連れてきたんだが……」

「……そう、ですか。ありがとうございます」

つまり、助けられたらしい。

助けた張本人は無自覚のようだが。



 


(2/9)



「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -