変わらぬものを、僕らは愛そう | ナノ
土方さんが大坂出張していたときのこと。巡察を終え、左之さんと2人で広間へと向かっていた時だった。


「総司と斎藤は何をやってんだ、ったく」


一緒に巡察をしていたはずなのだが、どこで先を越されたのか、新八さんが大広間で悪態をついていた。どうやら、ご飯はできているのに、幹部隊士が全員そろっていないいため、食べることができないようだ。


『千鶴ちゃんのところいってるんでしょ? 待っとけば来ますよ』
「そうだけどよ、」
「……それにしても、せっかくの味噌汁が冷めちまうな、」
「ったく、俺が呼びに行ってくる、」


平助がもう待てないとばかりに立ち上がり、廊下を走っていく。


『そんななら、千鶴ちゃんもこっちで一緒に食べればいいじゃん、』


並べられた膳に合わせて、適当に置いてあった座布団を並べた。それが終われば特にすることもなく、手持ち無沙汰だ。


「なつめ、お前、そんな量で足りるのかよ」
『え?』
「飯の量もすくねーし、味噌汁なんて具入ってるのか?」
『いーの、文句言わない』


新八さんからの茶々をかわしつつ、平助遅いなーと話をそらしたのだが。


「なんだ、なつめ。まだ治ってなかったのか、」


ああ、左之さんに捕まった。


『何の話かなー』
「どういうことだ、左之」
「こいつ、昔から里芋が嫌いなんだよ」
『もー左之さん、そんなこと覚えてるんですか』


と、残された3人でもめているところに、総司、一君、平助の登場である。その後ろから千鶴ちゃんが入ってきたことには少し驚いた。


「いいだろ、一緒に食べるくらい」
「……まあ、食事はみんなで食べる方がおいしいからな」


千鶴ちゃんの待遇の一歩前進である。








『千鶴ちゃーん、』


部屋の外から呼んでみると、ふすまが静かに開いた。相変わらず落ち着かなさそうなその人である。


「なつめさん、どうなさったんですか?」
『……敬語は使わなくてもいいよ?』
「え、あ、いえ、」
『それより、これから一緒に夜ご飯作ってくれない?』
「え?」


きょとんとするその人の右手を無理やりつかむ。


『だって、暇でしょ?』
「え、ですが、ここから出るわけには、」
『だいじょーぶ、私が責任とるからさ、』
「えーと……」


そのまま無理やり彼女を台所まで連れ出し、夜ご飯業務にとりかかる。


『どお、大丈夫?』
「江戸の味付けで大丈夫なんですよね?」
『うん、大丈夫大丈夫。あ、でも、今度京の味付けも教えてあげるね、』


味噌汁をお願いした、作業自体は難なくこなしているのだが、やはり心配はぬぐえないようだ。


『そんなに心配しなくても、土方さんはいないし……ま、このごはん食べたら、みんな喜ぶって』


もはや、苦笑いである。
まあ、近藤さんには許しをもらってるんだけどね。今日は夜ご飯の準備が遅れてしまっていたわけなのだが、ほかの人に頼るのもあれだし、選ぶ人を間違えると、逆に効率が悪くなるし、そこで千鶴ちゃんを抜擢したのだけれど。
言わないでいたいというのは、私の意地というかなんというか。ちなみに、隊士のみんなにも言ってないから、私と近藤さんとの企てだ。


「なつめさん、なんだか今日のごはん、いつもより―――」
『豪華でしょ? 実はね、いろんなお店の人がおまけしてくれてさ。今日は豪華にできたんだ』
「買い出しも、炊事当番の方が行かれるんですか?」
『そうだよ。……新選組って言っても、人手不足だからね。ご飯作るのも自分たちでやってるくらいだし』


この前のお饅頭も、おまけでもらった分なんだ、と言えば、おいしかったです、とようやく笑ってくれた。こうしてみると、まだ年端もいかない女の子なんだな、と。


『うん、じゃあお膳出しちゃおうかな』


2人で大広間へと膳を運んだ。










「やっぱ、なつめの作る飯はうまいなー」
「うんうん、しかも今日は随分豪華だしな、」


新八さんと平助の感想はこんなものである。


「なつめ、僕のにだけネギ多くいれた?」
『この前、里芋たくさんいれてくれたお返し』
「へえ、覚えときなよ?」
『やだよー』


一君は相変わらず無言でご飯を食べているのだけれど。まあ、総司と私の仲は今に始まったことじゃない。なんせ、同じような年の、しかも小さな頃にライバルのように競い合ってたんじゃ、こんな仲にもなるでしょ?


「これ、お前の味つけじゃねーな、千鶴か?」


そして、こんなに鋭い人がいるのだ、一人。名を、原田左之助という。女馴れという点では、新選組一かもしれない、というのは私の勝手な思い込みだ。


『ははは、左之さんやっぱ鋭いね。どお、千鶴ちゃんの味は』


「え、ほんとか、それ」
「千鶴の飯うめーーー!」
「へえ、君が?」


対する千鶴ちゃんは、あははは、とやはり苦笑いだ。


「これから毎日千鶴でもいいんじゃねーの」
「こらこら、雪村君はあくまでも客人なんだから、そんなことを言うな、平助」
「ちぇ、」


『私も、毎回1人で作るの大変だし、たまには手伝ってもらいたいなー』


と一応私の主張を唱えてみたのだが、新八さんの「突撃! 隣の夜ご飯」の大声でかき消されてしまった。くそ、ばか新八。もちろん心の中にて。





塗り箸で素麺を食べましょう



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