『大丈夫、気をしっかり持って』
「けど、」
任務に来ていた。中忍の子たちと四人一組、Bランク。のはずだった。
「あいつ歩けなくなって、……ハルさんだって、左足、」
『私は大丈夫。……そんなことより、この状況から脱出する方法を考えなきゃね、』
陽動作戦で、もう一つの四人一組の部隊が陽動隊だったのだが、陽動が失敗してしまった。しかも、任務の内容が敵にばれてしまったようだ。こちら側の拠点に多くの敵が攻め入ってきて、どうにかこうにか逃げ出した次第だ。
里にはトグリルを飛ばした。あの子のスピードなら、もう里にはこの状況が伝わっているはず。……あとは、里からの応援が来るまでどうやって持ちこたえるか。陽動部隊の方も心配だ。
「血の跡だ!! まだ新しい、敵は近いぞ」
見つかった。
向かいにいた子の、先ほどから不安だった顔がさらに青ざめるのがわかった。
『里に向かって逃げて。3人が離れないように、道の近くを走るの。……木の葉の増援部隊をすぐに見つけられるように、わかった?』
「いや、けど任務、―――」
『任務は続行不可能でしょう? 責任は私がとるから、行きなさい』
半ば強引に3人を送り出し、痛む左足をかばいながら敵の声がする方へと向き直った。
『はあ、はあ、』
さすがBランクといったところか。この怪我でも何とか戦える。
「くそ、強い。増援はまだか?」
そりゃあ、木の葉の特別上忍の肩書をもらってるし、そう簡単にはやられない。敵の3分の2はそこらへんに伸びている。
けど、そろそろチャクラがもちそうにない。敵の増援が来たなら、勝ち目はほとんど―――
「来た、増援だ。よし、これで、―――」
ぐわぁ、と悲鳴のような声が漏れ、そのままドサリと目の前の男が倒れた。その左右に立っていた男たちも、次々と倒れていく。
いったい何事だろうか、と目を細めると、敵のあちこちから鋭くとがった細長い何かが見える。千本だった。
『ゲンマさん?』
「すまない、遅くなっちまった」
風に揺れてなびく彼の髪がとてもきれいだと思った。
もう少しだけ待っとけよ、そう言い残し、その人は敵の増援部隊の方へ音もなくかけていった。
「ひどいな、」
『……油断しました』
左足の止血をやり直し、夜を迎えていた。
火を焚けば見つかるから、とそうそうに火を消した。夏が終わり、秋まっただ中である、さすがに野宿するには辛い季節だ。
「ハル、寒くないか?」
『大丈夫です、』
十分寒かったのだが、寒いといったところで何が変わるわけでもない。ただ、ゲンマさんを困らせるだけだ。
「嘘つくな、」
しかし、やはりゲンマさんにはお見通しのようだ。それじゃあなんで「寒くないか」と聞いたのか、疑問は残るのだが、そんなことはゲンマさんの次の行動で一気に吹き飛んだ。ついでに寒さも一気に吹き飛んだ。
『ゲンマさ、』
「あったかいだろ、離れるなよ」
私はその人の胸の中にいて。ドクン、と聞こえる彼の音と、少し動くたびに耳に届く衣擦れの音と、もう聞きなれた彼の呼吸する音と。
もう何度も男女の行為に及んでいるというのに、いつになってもゲンマさんの隣はドキドキする。
『……ゲンマさん、よくあの場所がわかりましたね』
私のドキドキは伝わってしまっているのだろうか。
「ん?」
『だって、結構森の奥まで入ってましたよね? よくわかったなーって思って、』
「ああ、―――」
『って、ゲンマさん一人できたんですか?』
そこでようやく、そんなことに思い至る。
「急に大声出すな、」
片手で耳を抑えながらそう言いつつ、
「トグリルを見かけたもんでな。俺は一人で来たが、里からはちゃんと4人、増援が出ていたはずだ、」
『ゲンマさん、任務の報告しないで来ましたよね?』
たしか今日までの任務があったはずだ。報告書を書いて提出のはずだったが、この分じゃ報告書を書かずに来たことは間違いなさそうだ。
『もお、ゲン―――』
しかしその続きは、ゲンマさんによって邪魔された。深い深い口づけ。
『ふ、』
「明日も早いんだ、早く寝ろ」
強引に口づけされ、強引に寝ろと言われ。子ども扱いされている気分に少しだけ怒りたかったのだが、文句を言おうにも、ゲンマさんの胸の中に拘束されていてできそうにない。ああ、もう。明日、里に帰ったら報告書にたくさん文句を書いてみようかな。
この瞳は君を探すため
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