「だいぶ髪伸びたなー」
珍しく2人で会っていた。3年生になり、部活も勉強も忙しくなるから。どちらが言ったわけでもないが、休日に会う回数はめっきり減っていた。
『そりゃあ、髪切らなくなってからもうすぐ1年になるんだから、髪も伸びるよ』
笑って答えれば、ごめん、と彼。
『なんで今更謝るの? 今じゃもう思い出だよ、バレーやってたことも、やめなくちゃいけなくなったことも、ね』
「あき、」
『そもそも、そうさせてくれたのは孝支でしょ』
「ははは、強いな、あきは」
大丈夫?
いつもと様子が違うその人に問えば、ちょっと大丈夫じゃないかな、と。やはり、いつもの孝支らしくない。
『……東峰とうまくいってないんだ?』
「あいつ部活にこなくなってさ、」
なんと返せばよいのだろうか。孝支だったら、なんて返すのかな。
ちらりと様子を窺えば、公園のフェンスに腕と頭をのせて街を見下ろしている。下から吹き上げる風が、その人の色素の薄い、透き通ったきれいな髪をなびかせた。ついでに私の髪も揺らしていく。
『東峰はさ、バレーができなくなったわけじゃないよ、』
「……」
『だから、いつ帰ってきてもいいように、……東峰がいつ帰ってきてもアタックが打てるようにさ、孝支は東峰の打ちやすいトスを練習しとかなきゃ、』
孝支の隣に立ち、同じようにフェンスにもたれかかると、下から吹き上げる風が心地よかった。もう肩の下まで伸びたであろう髪が、後ろへとなびく。
『私も付き合うよ、トスの練習』
「……ありがとう、あき」
『どういたしまして』
少しだけ笑った孝支の頭を優しくたたいた。以前、彼がそうしてくれたように。私を励ましてくれたように。
「やめろよ、恥ずかしいな」
『孝支がへこたれるからだよ、』
頑張ろうね、とは心の中でつぶやいた。
寒さの残る朝に、
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