短編集 | ナノ
「リン、ちょっといい?」

不意に呼び出された。
夜行きってのキャリアウーマン・刃鳥美希と任務の進捗やれ飲み会の企画やれで話していたところ、わざわざ呼び出されたのだから、深刻な話なのだろう。いつもなら、美希もいる中で話をする―――その方が効率がいい。

『何かあった?』

夜行の頭領としての立場のある彼は、新生裏会でも立場をもらい、裏会と夜行の間で忙しくしている。最近では、美希が夜行を取り仕切ることも多くなった……昔からそうだった気もする。
そして、夜行の任務の幅も増えて、遠征任務も増えた。昔と大きく違うところはこっちの方かもね。そうした遠征任務には、私やその他の古株たちが―――言い換えれば経験豊富なお兄様・お姉様ということにしておこう―――ある程度の裁量を与えられ遂行する。

しばらくはそうした体制で夜行も運営していたのだけれども。正守いわく、この度夜行の編成を少し変えるらしい。詳しくはまだ聞いていない。3日ほど前に遠征任務から帰ってきて、美希とあわただしく過ごしていたから、正守と話す暇がなかった。加えて正守も裏会へ出向いたりなんだりで忙しそうだった。

「ちょっと重い話」
『それくらいは検討つくわ。美希にも言えない話?』
「いや。刃鳥にはこれから言うんだけどさ。まずは君に話しておかないと、と思って」
『うん?』

続きを促すと、正守は次の言葉を探しているのか、のんびりと頭を掻いた。会わない間に少し老けたな、なんて。

「雪女の妖混じりが生まれたらしい」

ああ。確かに重い話だ。
また誰かが生贄にされているのだろうか。

『どのあたり?』
「君の生まれた村のあたり」
『それってつまり、私の生まれたところかしら?』

否定しないのは肯定の意だ。

しばらく沈黙があった。
私の過去を振り返る時間には十分で、少し息苦しくなった。まだ動揺してしまう自分が、なんだか幼稚だ。

「大丈夫か?」
『大丈夫。……たぶんね』
「たぶんね、ってつけるあたり、成長したね」
『どういう意味よ』
「昔の君なら、大丈夫って強がりで通してたでしょ」

過去の自分に動揺してしまう私でも、成長しているのか。そんなことを頭のどこかで感じつつ、でも何か言葉が出そうではなかったので、ここは素直に正守に甘えることにした。要するに黙りこくった。

「まだ生まれて間もない子だよ。小屋に閉じ込められたわけでもない。裏会に正式に引き取り要請がきた。だから―――」

だから?
うつむいていた視線をあげると、正守がすぐそこにいて。そのまま優しく抱き寄せられた。

「そんな顔しないで」

そんな顔ってどんな顔しているのだろうか、私は。
でもそれも言葉にはならなくて。

「ウチで引き取ることにした。というか、ウチで引き取るしかないと思って。力の使い方、君が教えるしかないだろう?」

確かにそうね。雪女の妖混じりだもの。私が力の使い方を教えてあげるのが一番いい。
言葉にしなくても、私の考えは通じているようで、正守は私をあやすように大きな手のひらを私の頭にのせた。

「まだ幼いから、しばらくはお母さん係みたいなものだけど。けどとりあえずは、現地まで引き取りい行かないといけなくてさ」

ああ、一番の難関はそこだな。
嫌な思い出が残る場所。一番思い出したくない記憶。でも一番鮮明に覚えている記憶。

生まれた町へと赴くことはもうないと思っていた。
でも、今でもたまに悪夢を見ることがあるから。もしかすると、過去にちゃんと向き合えってことなのかもしれない、なんて。都合のいいように解釈している自分がいる。



故郷の話をしよう01



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