短編集 | ナノ
「ねえ、文弥。俺何か悪いことしたかな?」

珍しく頭領が塩らしかったので、何事かと思っていたら。なんだリンのことね。こと恋愛の話になると、急に頼りないんだから。なんて間違っても口には出さないけど。

「喧嘩でもしたの?」
「いや、特に。仕事もうまくいってるみたいだし」
「じゃあ何かしてほしいんじゃないかな?」

そう言ったところで、最近の頭領の行動を思い起こす。最近この人いつ休んだ?

「もしかして頭領。まさかとは思うけど、リンとデート行ってないことはないよね?」
「デート? 長期任務でそれどころじゃなかったからなあ」
「え、1回も行ってないの?」
「電話はしてるよ、3日に1回くらいは」

はあ、と思わずため息が出たことはこの際見逃してほしい。
あんなに仕事ができるのに。仕事に関しては野心たっぷりなのに。

「そりゃあ、リンも怒るよ」
「?」
「とりあえず、どっかその辺歩くだけでもリンは喜ぶと思うから」
「その辺って、」
「ほら早く! 長期任務抜けてこっち来てるだけなんだから、モタモタしてるとリンいなくなっちゃうよ」

というのが今朝の話。
副長に頭領との会話の一部始終を伝えると、クスリと笑った。

「まあでも、無事に二人で出かけてるんだから、よかったわね」
「どこにも出かけてないって聞いてびっくりしっちゃった」
「もうカップル通り越して夫婦のようなものだからね」

そんな夫婦のような二人の行先は、おいしいパフェが置いてあるカフェらしい。





「すっかり忘れてた」
『あらやだ。私はずっと覚えてたわ。いつおごってくれるのかって』
「よくそんな2年も前のことを覚えてるもんだ」

こわいこわい、なんて聞こえてくるけど気にしない。
さかのぼること約2年。
正守から、細波さんの周辺を探るように言われて、その報酬として特大パフェをごちそうになる予定だったのだけれど。私の体調不良で延期になっていた。
その延期されたパフェはなんだかんだと食べる暇がなく、それをこれ見よがしに主張したところ、あっさり意見が通された。もう時効とか言われるかと思ったんだけどね。

『ん〜たまんない。ここのパフェおいしいのよね』
「そこまでおいしそうに食べると、おごりがいがあるよね」
『そういう正守だって、すごくおいしそうだけど』
「でもよかった、機嫌が直って」

なんで機嫌が悪かったのか、理由がわかったの?
と聞くと、ポリポリと頭を掻く仕草。ああ、これは。ピンと来ていないわけだ。

『私ね、正守の考えていること大抵わかるんだけど、』

任務以外だとそうでもないらしいのよね。
それがなんだか悔しくて、少しいじけて彼を見れば、きょとんとした顔。

「俺が考えてること? 任務以外で?」
『そう』
「それは、お互い様じゃない?」

言いつつ、何の前置きもなく正守が私のパフェに手を伸ばした。

『あ、ちょっと私のパフェ』
「いいじゃん。こっちもあげるから」

ズイ、と自分のパフェをこちらに寄せてきた。こっちというのは、自分のパフェのことだったらしい。とそれで気が付く。
まあそれなら食べる量は減らないし損はないかな、なんて損得勘定。

「俺も、リンが何を考えているのかさっぱり」
『そお? こんな分かりやすいのいないと思うけど』
「どこに行きたいとか、何が欲しいとか。もう少しわがまま言えばいいじゃない」
『なんで?』
「じゃなきゃ、どうしていいのかわからないでしょ」
『それは正守も一緒でしょ、自分だって任務の話ばっかりで、それ以上の話何もしないじゃない』

そのあたりで正守が食べ終わったようだったので、私も慌ててペースを上げる。

「いいよ、ゆっくりで」
『なんか負けた気がしてイヤ』

そんなわがままを、正守は黙って見過ごす方向にしたらしく、何やら少し笑いながらこちらを見ていた。
それもなんだか気まずくて、というか恥ずかしくて、ますます食べるスピードは増す。

『ふう、食べ終わった。結構多いわね、特大は』
「リンにしては珍しくよく食べたね」
『だってパフェおいしいじゃない』
「リンの食欲不振にはパフェが効くとは気づかなかった。次からは酒じゃなくてここに連れてくるかな」

ええ、お酒がいい。
そうケチをつけると、「んー」なんていう珍しい返しがきた。

「だって酒飲むと、飲みすぎるでしょ、リンは」
『いいでしょ、好きに飲ませてよ。誰に迷惑をかけるわけじゃないし』
「リンも知ってると思うけど、うちの集団若いのも多いからさ」

今更な話をする。
そもそも夜行創設メンバーですよ、私。

「心配なんだよね」
『飲みすぎることが?』
「そうじゃなくて、他のヤツと何か起きないか」
『へ?』

予想外の言葉に思わず変な声が漏れた。
でもそれも気にならないくらい、予想外の言葉。

「結構焼いてるよ、俺」
『へえ、案外若い部分もあるのね』
「うわー、それはひどいんじゃない、恋人として」

気にしてるんだけど、この見た目。なんて言う。

『気にしてるなら、洋服も取り入れてみたらいいじゃない』
「そういう問題?」
『そういう問題』

なんだかお互いの自己紹介をしているようで新鮮な感じ。正守でも焼くんだ。しかも夜行の男性陣に。なんだか意外。
いままで頭領としても正守しか知らないから。恋人としての正守は、きっとこれからたくさん知ることになるのだろうけど。またイチから関係を築かないといけないのね。

『じゃあ、電話するときは任務以外の話をするようにしよう』
「任務以外って?」
『今日の天気は? とか?』
「ベタだね」

お互いの考えは手に取るようにわかるのにね。
恋愛についてはお互いさっぱり。
ああ、そういえば、正守が何を考えているのかわからないのは、もしかすると正守が何も考えていないからなのかも、なんて思ったり。

こと恋愛になると……02



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