短編集 | ナノ
彼の透き通ったきれいな髪を、自然と目で追っていた。バレー一筋できたために短く切りそろえた私のそれは、彼とは対照的に真っ黒である。まるで、極端に飛び離れた点と点のように。2色が交わることはないだろう。


『きれい』


ふとした気のゆるみだった。
力を入れ続けることを忘れてしまい、勝手に開いた唇たち。自分の体内の水分をこれ以上出すまいとする孔辺細胞のように、唇を固く閉じて発した言葉をなかったものにしようと試みる。さっきまで受けていた授業のせいか、孔辺細胞なんて単語が頭の中を駆けていった。植物って走るのか?


「きれいって……菅原のこと?」


しかし隣人は私の気のゆるみを聞き逃さなかった。


『ちがうよ、』


広義に言えばそう、菅原くんのこと。狭義に言えば違う、その人の透き通るような髪のこと。菅原くんじゃなくても、きれいな人は「きれい」だから、私のこの気持ちは菅原くんだけに対する言葉ではないのだ。


「照れんな照れんな」


ガシガシと遠慮なく背中をたたかれた。ずっと競い合ってきた好敵手であり友人であり幼馴染である隣人に、私も黙っているわけにはいかない。


『結の想い人、ゴール決めてるよ』


ちゃんと試合見なくていいの? そう問えば、「え?」と慌てて試合に向き直った。向き直った瞬間にしかし、彼女は私の頭をグチャグチャにした。いつもならボールをたたく右手で。


「あーきー? なーにが想い人よ! しかも誰がゴール決めたって?」
『みんな知ってるよ、結の想い人くらいさ、』
「違う」
『んー?』
「と、とにかく! 菅原、いいやつじゃない?」


どこがどう「とにかく」なのやら。疑問に思ったが、コートの真ん中に置かれたタイマーがラスト1分を示した。オレンジ色のボールは、菅原くんが手にしている。ただでさえ透き通った髪が彼を目立たせているというのに、オレンジがさらに彼を際立たせている。


『バレーじゃない菅原くんを見るのもいいね』


たしかに発言した言葉はしかし、結には届いていなかった。
菅原くんがゴールを決めた。



クリアな君とオレンジ



back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -