断じて行えば鬼神も之を避く | ナノ
16大掃除の日



西本願寺に屯所を移転してしばらくした頃。松本良順という先生が隊士全員を診察した。そして新選組は病気の見本市だとこぼし―――その言い方はちょっと面白くてしばらく思い出し笑いするハメになった―――、そして今朝。

「今日一日を大掃除の日といたす」

近藤さんの一言に、その場にいたほとんどが「えぇ〜」と悪態をついた。
新選組は剣客集団であるから、掃除なんてやってられない、といった感じだろう。

まあでも、局長命令とあらば、とみんなしぶしぶ掃除を始めたが、始めてみると面白いのか、あちこちでに楽し気な会話が聞こえている。

私は千鶴ちゃんと二人、廊下の雑巾がけをしていたのだが。

「おい、なつめ。ちょっとこっち来い。千鶴も来いよ」

組長からの招集命令だ。何事かと、雑巾片手に向かったところ。新八さんと平助も一緒だ。その時点で大した用事でないな、とあたりを付ける。

「あ、左之、それは卑怯だろ!」
「あ?何が卑怯だ、軽いヤツほかにいねーだろ」
「ちょっと軽いヤツって言い方ひどいだろ。俺は成長期だっての!」
『なんの話?』

ついていけずに質問すると、手の届かない上の方の、蜘蛛の巣取りをするらしい。新八さんが平助を肩車するとのことで、じゃあほかに軽いヤツと白羽の矢がたったのが私である。
そして”軽いヤツを担ぐ”というところに引っかかったのが平助。
自分が小柄なことを気にしているらしく、これから成長するのだと反論した形だ。

「千鶴は、俺たちを誘導してくれ」

そうして始まる蜘蛛の巣取り合戦。

「あ、ちょっとそういうことすんのか!?」平助が蜘蛛の巣に顔から突っ込んだらしく、それは新八さんのせいなのだが。
くそ、と言いながらその蜘蛛の巣をなぜか私の方へ風に乗せて飛ばしてくる。

『ちょっと、平助!』

真面目に蜘蛛の巣取りをしていたため、右手も左手もふさがり、平助からの蜘蛛の巣が顔面に直撃する。

『後悔させてやる』
「おい、なつめ、急に動くな、」

言いつつ体制を整えるため動いていると、左之さんが慌てて壁に手をついて、体を安定させてくれたようだ。
その安定した肩車の、肩に足の平を乗せて立ち上がる。

「何!?」

肩車だと左之さんの身長と私の身長の半分しか稼げないが、左之さんの上に立つと、私の身長分加算される。上の方にあって届かなかった蜘蛛の巣を大量にかっさらい―――生きた蜘蛛もいた―――、平助の頭の上に落とす。

「ちょっ、蜘蛛入ってるだろ、なつめーっ!」

そうしてその下の人まで被害が移る。

「わ、おい、背中でなんか動いてるぞっ!?」

―――どしんと音がして、平助と新八さんが尻餅をついた。

『私にいたずらしようなんて、100年早い!』
言いつつ、こちらは軽やかに左之さんの肩から降りる。
ふう、と息をつくと、そこでようやく状況を理解したかのように、左之さんが大笑いした。千鶴ちゃんも笑っている。

「お前が総司と並んでいたずらっ子だったことを思い出した」

はあ、腹痛いと続く。

「くっそー、覚えてろよ」
『そもそも私じゃなくて、始めたのは新八さんじゃない』
「うっせー、どっちも覚えてろ!」





「いいぞなつめ!」
「なにしてる、平助っ!!」

やっているのは雑巾がけなのだが。

先ほどの蜘蛛の巣の一件で火が付いたらしく、雑巾がけの徒競走が始まっている。ただし、1対1ではつまらないということで―――この時点で私が平助に勝つことを察知しているのでは、と思ったけど優しいから言葉にはしないでおく―――、一君も巻き込んでの3対3となる。

ちなみに左之さん・千鶴ちゃん・私の編成で、新八さん・一君・平助が相対する。
総司は調子が悪いらしく、脇で見ているという。

新八さんと左之さんが第一走者で、ほぼ同じくらいの到着となり、第二走者の一君と千鶴ちゃんは、一君に軍配が上がる。そしてそれを受け取った私が、ぐんぐんと平助へ追いつき、そして追い越した。

「くっそー!」

とは平助で、はあ、はあと息は荒い。

『江戸で遊びすぎたんじゃないの』

平助は、伊東さんへ新選組加入を交渉したり、そのほか隊士募集をするためにしばらく江戸に滞在していた。おかげでしばらく屯所は静かだったのだけど。

「んなわけねーだろ! 大変だったんだからな」
『はいはい。で、気は済んだ? まだ負けたいの?』

ニヤニヤその人を見れば、カチーンと言うのが聞こえてきそうなほど。

「ちょっとそこで待ってろ!」

あれだけ掃除を嫌がっていたのに、残った掃除箇所を探しに行くようだった。じゃしばらく休憩しよう〜と千鶴ちゃんと二人、境内の階段に腰かけたのだけど。

結局、あらかた掃除は終わってしまったようで、平助がブツブツ言いながら戻ってきた。その様子を見て千鶴ちゃんの二人、顔を見合わせて笑った。





大掃除の日がひと段落して。
また近藤さんが隊士を広間に集めた。何事だろうかとざわざわとしていたところ。

「みんなも徳川家茂公が上洛されるという話は聞き及んでいると思う」

ざわざわした広間が静まり返る。

「その上洛に伴い、公が二条城に入られるまで、新選組総力をもって、警護の任に当たるべし、との要請を受けた!」

「将軍公の警護を、新選組が?」
「こりゃ、とんだ大出世だな!」
「池田屋や禁門の変の活躍で、お偉いさん方も、俺たちの働きを認めざるを得なかったんだろうよ」

みんなが嬉しそうに話す横で―――平助だけは、どこか複雑な面持ちだ。不思議に思っていると。

「あのさ、近藤さん。実は俺もちょっと調子が……」

総司の調子が悪くて総司は留守番という流れの後に、平助も調子が悪いという。先日の大掃除の一件を見ても、まったくそんな気はしなかったが。

「なんだ、平助も風邪か? 気を付けないといかんぞ」

その後、そこまで危ない内容ではないとのことで、千鶴ちゃんも参加することになり、近藤さんと土方さん、それに伊東さんも隊の編成を決めるため広間から退室いしていった。

『平助、どうかしたの?』

問えば、ちょっとな、と気のない返事。
何かがあったのだろうが、詳しく聞く暇もなく、二条城警護の日となった。




prev/next
back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -