「なあなあ名前ちゃん今日はとても美しい青空だぞ!」「まあ美しさで言えばオレも負けてはいないのだが・・・」「なんと言ったってオレはスリーピングビューティ!登れる上にトークも切れる!そしてこの美形だからな!」

ざ・・・雑音うるせえ・・・。
目の前でべらべらどうでもいいことを大きな身振り手振りで説明している雑音発生マシンは私がどんな顔をしているのか見えていないのか!?そういうのは沢山いるファンにやれよ!なんで貴重な休み時間にこっちに来るんだよ!こちとらボーイフレンド(仮)進めるのに忙しいんだよ!言いたいことは色々あるけどそれを口にしたら倍の言葉で返ってくる未来が瞬間的に予想できたので私は無表情を貫きスマホをいじる。雑音発生マシンにかまうより桜沢君といちゃらぶするほうがよっぽど魅力的だわ。

「聞いているのか?」

聞いてません。
そう返すのもめんどくさくて私は桜沢君とにらめっこする。ああもうほんとかわいいなあちょっと腹黒っぽいところもいいなあ。

「なあなあ名前ちゃん」

ほんとめげないなこいつ・・・。はあ。ため息を吐いただけなのに「おお聞いていてくれたのか!」反応が返ってきたことが嬉しいのか、声をあげる東堂にすっとひとさし指を出す。「??」きょとんとする東堂の視線を誘導するように教室の扉の方を指せば、キャアッと女子の声がわいた。「東堂さんこっち向いてー!」「休み時間の東堂さんも素敵ー!」休み時間の東堂さんってなんだよ。思わず噴きだしそうになってしまうのをこらえてスマホに視線を戻す。相変わらずの雑音は「ワッハッハどうしたんだね君たち!」相変わらずのファンサービスを徹底しているみたいだ。
・・・今のうちに、移動しよ。
これ以上目の前でうろちょろされてもただただめんどくさいだけなので、東堂がファンにかまけてる間に教室を出たところまでは良かったんだけど私の予想以上に東堂はめざとかったらしい。

「どこに行く気だ名前ちゃん!」
「べつに」
「ムゥつれないな」

そう言いながらもちゃっかり隣に並んでいる東堂は「また応援よろしく頼むぞ!」ファンへあいさつをしたあとすっきりとやりきったような顔でまた名前を呼んできたわけですが「さて名前ちゃん」さてじゃねーよさてじゃ。どんなに歩幅を大きくしてもどんなに近寄るなオーラを出しても隣で雑音を発生させつつぺちゃくちゃついてくる東堂はとうとう裏庭までついてきた。

「裏庭がこんなにきれいなところだとは思わなかったな・・・こんなところを知っているなんてさすが名前ちゃ」
「・・・あのさあ」

私の声はそれはそれは低かったと思う。不機嫌全開を込めてため息と同時に出した声に、東堂はしかしたいした反応を見せない。「どうしたのだ?」なんていつもの変わらない調子で楽しそうに反応を返すだけだ。それがまた私のいらいらを煽る。空気よんでよでこっぱち!私はただ静かなところで桜沢君をボーイフレンド(仮)にしたいだけなんですけど!

「なんでついてくるの」
「名前ちゃんと話がしたいからだ」
「そういうのめんどくさい。うざい」
「う・・・うざくはないな!」

あ、怯んだ。
うざいって言葉に抵抗があるのかこいつ。それならうざいって何回も言ってやればまとわりつかなくなるかなあ。

「い・・・いじわるな顔をしているな名前ちゃん」
「あ、わかる?」
「分かるぞ!オレはずっと名前ちゃんを見てきたのだからな!」
「えっ何それストーカー・・・」
「違う!それは違うぞ!オレは名前ちゃんを・・・」

ストーカー宣言を真っ二つにぶった切った東堂は、高らかに私の名前を叫んだもののそのあとはもごもご口の中で何かを咀嚼してごくんと飲み込んでしまった。私をなに?東堂の今までの台詞の流れ上、私を・・・私をなんだ。えーっと・・・。ぐるぐる頭を回転させれば、自然とひとつの結論にたどり着く。いやまさかそんなばかな。まあでも一応・・・。

「東堂私のこと好きなの?」
「なっ・・・!」

何の感情もこもっていないので、さらりと口からすべり落ちた言葉はしかし東堂に効果抜群だったらしい。言葉を詰まらせて、口をぱくぱくとさせて、「いや、それは、しかし、その」いつもの歯切れの良さはどこへいったのやら、ぶちぶち言葉を途切れさせる東堂はなんだか新鮮で、・・・面白い。

「へえ、東堂私のこと好きなんだ」
「ムゥ・・・!」

好きだから私につきまとっていたし、好きだから冷たくされてもめげなかったの?なんつー少女漫画のヒロインだよこいつは!
は〜〜〜〜〜〜
肺の奥から湧き上がってきたため息を盛大に吐き出せば、東堂はびくんと1度跳ねた。
そっかあ東堂私のこと好きなんだあ。
好意を向けられていることを自覚すると不思議なもので、東堂の今までの行動がなんだか面白かわいく思えてくるから不思議だ。私がスマホとにらめっこしてる間も気をひこうと雑音発生させて、教室を出れば追いかけてきて。そして今裏庭でふたりきり、顔を真っ赤にさせた東堂は私をじいと見つめている。そんな東堂に1歩踏み出せば、東堂は1歩下がった。

「なんで下がるの」
「なんとなくだな、」
「東堂私のこと好きなんでしょ?」
「すっ・・・」

東堂の顔を下から覗き込んで上目づかいをつくってみれば、東堂は言葉を詰まらせたあと、息を吸って、

「好きだ!好きで好きでたまらない!だから今この状況をどう対処すればいいか迷っている!名前ちゃんと、裏庭で、」
「ふたりきり?」

こくり、東堂は静かにうなずく。あーこの東堂も新鮮かも。いつもいつも雑音発生させる東堂しか知らなかったし、新しい東堂を知っていくのは楽しいかもしれない。

「わ・・・ワッハッハ!これはまたいいシチュエーションではないか名前ちゃん!誰もいない裏庭での告白、山神と呼ばれるオレを木々たちも祝福してくれていると思わな「東堂、雑音禁止」

せっかく新鮮な東堂に浸ってたのに、ぶち壊しもいいところだ。おそらく多分絶対に照れ隠しなんだろうけど、この状況でそれはいらない。どうやって東堂を黙らせよっかなー。
あ・・・いいこと考えた。
そして私は行動にうつす。もう一歩前に出て、少し背伸びをするのだ。

「・・・ちゅっ」
「・・・ちゅっ・・・!????」

とりあえず思いつくままにキスしたわけだけどこれまた効果抜群東堂に100万倍のダメージ!・・・だったらしい。軽く触れるだけのキスで、顔を真っ赤にしたあげく、へろへろと腰を抜かすこいつは本当に健全な高校生男子か!?まあ思ったより新鮮でかわいいけど!
・・・あれ?
あんなにめんどくさく思っていた東堂のことを、自然とかわいいと思ってしまっている自分にちょっと驚く。我ながら変わり身早すぎ?っても思うけど、私は東堂見てると面白くなってきたし、東堂は私のこと好きだし。ギブアンドテイク、悪くないんじゃない?

「腰抜かしちゃった東堂かーわいい」
「ばっ・・・ばかを言うな、かわいいと言われて喜ぶ男などいない」
「でも今時キスくらいで腰抜かす男子もいないでしょ」
「今まで見向きもされなかった好きな女子からの突然のキスだ、驚かない方がどうかしている!」
「好きな女子」

気になった単語を抜き取って繰り返したら、東堂は自分の言った意味を理解したあとハッと目をまんまるくさせて、奥歯を噛みしめて、どこか悔しそうに私を見る。でも顔は赤いままだったりして。
・・・あ、やばい。ちょっとはまっちゃうかも。
お腹の奥からわきあがってくる何かにぞわぞわする。私をこんな気持ちにさせている張本人、東堂は赤い顔のまま、私を真正面から見つめていた。

「名前ちゃん、オレ達は」
「ふあ〜〜〜〜東堂さんそこにいるんですかあ?」

・・・!????
驚いたのは東堂も私も同じだったけど、多分おそらく絶対に驚きの方向性が真逆だったと、思う。私はこの時の衝撃を忘れない。
・・・今の声・・・どこかできいたことがある・・・ちょっと待って・・・うそでしょ・・・そんな・・・!

「あれ、女子の先輩も一緒だ。こんにちは〜」
「真波!」「桜沢君!?」

え???
声が被ったのはここまでだった。

「ちょっと待って声すごいそっくりなんだけどどういうこと?!ねえ君スマホから飛び出してきてない!?」
「あははそんなことできたら夢は広がりますけど〜」
「スマホ?どういうことだ・・・いやそれより真波どうしてここに!?」

東堂とこの後輩君は知り合いらしい、けどそんな事実どうでもよくて、私は慌ててスマホを連打してひとつのアプリを起動する。「裏庭で寝るとすごく気持ちいいんですよ」「そうか・・・木々のざわめきがマイナスイオンを・・・ってそういう話ではない!」そのとおりそういう話ではない!

「ちょっとこれ聞いて!」
「ム?なんだこのアプリは」
「ゲームですか?」

そして私は桜沢君を連打する。そしてスマホからきこえてきた声に、

「・・・真波と似ているな」
「そうですか?」
「今のいい・・・!すごくいい・・・!もう1回言って、マナミ君・・・!」
「あははおかしな先輩だなあ」
「今のもすごくいいです!」

やっべえ超興奮する。桜沢君とすっごいそっくりな声をした男子がいてその子が東堂の後輩だって?!これってどういう縁!?もうつながるしかないよね!?「ちょ・・・ちょっと待て名前ちゃん!」マナミ君のメアドゲットに動き始めた私の腕を東堂がつかむ。「・・・なに」低い声に戻った私に一瞬怯んだ東堂は、だけどキッと私を見つめていた。

「オレを見てくれ名前ちゃん」
「分かった分かったあとで見てあげるからまずはメアド交換させて!?ね!?」
「スマホと同じ声の真波がそんなにいいのか!?」
「はあ?!いいに決まってんじゃんあんただってスマホから私の声がきけたら嬉しいでしょうが!」
「む・・・ムゥ・・・!」

いやそこで黙るなよ。
まあいいやとりあえず東堂が固まっている隙にマナミ君とメアドを交換する。ついでに携帯番号も。

「ならん!ならんよオレより先にメアドを交換するとは何事だ真波!」
「奪われちゃいました〜」
「奪っちゃった」
「仲良しみたいな発言はやめろ!」

マナミ君と私の間に入った東堂は、「いいか真波裏庭で寝るのは気持ちいいだろうが」「それと今の件との話は別だ」「ああ先輩がひと悶着起こしてたこととですよね」「ひと悶着言うんじゃない!」マナミ君にお説教してるんだかかわされてるんだか。
はあでもすごい収穫・・・!桜沢君と同じ声をしてるってだけでマナミ君すごいポイント高い!

「なあ名前ちゃん、先ほどの、」

お説教し終えたのか私に東堂が向き直った瞬間、休み時間終了のチャイムがなった。
ゲッやばい次遅刻に厳しい教師の数学じゃん!?東堂もそれに気づいたのか、ハッとしたあと走り出した私の後を追ってくる。

「いいか真波!今あったこと誰にも言うんじゃないぞ!」
「はあ〜い」

ってマナミ君は走らないのかよ!自由な子だな!どんどん小さくなっていくマナミ君を見ながら思わず噴きだしてしまう。なんか変で面白くて桜沢君と声がそっくりな子みーつけた!
にまにまする私の隣を走る東堂がその時私を複雑な顔で見つめていたことなんて知ったこっちゃなかったんだけど、私はこの時のことをあとで後悔することになるのだ。