たしかに少しちょうしにのってしまったことは認める。認めるけど、けしてわざとじゃないことは分かってほしい。「やってしまったな・・・」「顔面ヒットとはやってくれるぜ・・・」こそこそつぶやくでこっぱちとバキュンたれ目に威嚇しつつ視線を正面、足元にむければ、そこには顔をおさえてうずくまっている野獣でブスこと荒北がいるのだった。

「荒北〜・・・悪い冗談はやめようよ〜・・・」

かける声もむなしく、荒北はぴくりとも反応しない。それどころか「ヒュウ!責任転嫁って言うんじゃねえのか、今の」「男らしくないな苗字」ばっちりきこえてきたひそひそ話に私は女だと豆を投げつけてやれば悲鳴があがった。お前らこそ男らしくないし!

「・・・」
「・・・」

話はほんの5分前にさかのぼる。
東堂が実家から送られてきた豆を持ってきたのがそもそもの始まりだった。食用にするには多すぎる豆の有効活用方法を考えたのち「豆まきをしようぜ」バキュンと提案したのは新開だ。暇をしていた私たちは季節外れの豆まきに妙なやる気をおこしじゃんけんで鬼を決め「鬼って新開のが似合うだロ!」文句を言う荒北を鬼に豆を投げつけて遊んでいたのだけれど、私の投げた豆が荒北の顔面にヒットしてしまったらしい。そして冒頭に戻る。

「わざとじゃないよ、荒北、大丈夫?」
「・・・」

相変わらず痛そうに顔をおさえたまま反応しない荒北。

「はやく謝るのだ苗字」
「目を見てごめんなさいって言うんだぜ?」
「近寄ったとたん噛みつかれたりしない!?手負いの獣が1番怖いっていうじゃん!?」

東堂と新開に助けを求めても無言で顔をそらされるだけだった。お前らマジであとで覚えとけよ。

「しかしよほど痛いらしいな・・・」
「もしかして目にでも入ったんじゃないのか・・・」
「えっ!」

私の投げた豆が原因で荒北の目に傷がついてたらどうしよう。どくんどくんと心臓の音が大きく聞こえてくる。もし本当に荒北の目に豆があたってしまったなら、少しでもはやく病院に行かないといけないんじゃ・・・!?どうせわざと痛がってるんでしょとか思ってごめんなさい!

「荒北、ちょっと顔見」
「捕まえたァ」

ん?
焦って荒北に伸ばした腕はぎゅうとつかまれていた。誰にってそりゃひとりしかいない。ズゴゴゴゴ、とよくないオーラを背負っていつの間にやら青筋浮かばせた顔をあげている荒北にだ。慌てて東堂と新開の方を見れば両手を合わせられ・・・って私まだ死んじゃいませんけど!?

「やってくれるじゃナァイ名前チャァン」
「だから!わざとじゃないってば!ていうか目は!?大丈夫なの!?」
「目には入ってねえよデコにはあたったけどナァ」

怒っている、あきらかに荒北は怒っている。つかまれている手を思い切り振っても荒北の手は振りほどける気配がない。それどころかグイッと引っ張られ、顔をあげれば荒北の顔がすぐそこにあるくらいでこれはいわゆるブステロ、

「お詫びしろヨ」

なんて思う暇もなく荒北の口元から八重歯がのぞいたのが見えた。


豆まき注意報
「ちょっと待って近い近い近い近いなにこれなにこれ助けて東堂ォオオ新開ィイイ!」
「せっかくきっかけ作りをしてやったのだ、男を見せろよ荒北!」
「ヒュウ!そのままがぶりといくのが男だぜ!」
「は?なにそれ?は?」
「ッセ!余計なこと言うんじゃねえヨ!」
「ちょっと待って荒北ストップストップおすわりおすわり!ごめん、ほんとに恥ずかしいから!」
「止まった」
「止まったな」
「今の台詞のどこに荒北はキュンとしたのだろうな」
「おすわりじゃねえの?」
「お前らマジで黙っててくんナァイ!?」