スリルって、すごく興奮をあおると思う。
いつもよりずっと激しい心臓の音を全身で感じながら、私と東堂は息をひそめて事に及んでいた。

「ふっ・・・とうどっ・・・!」
「声をあげてはだめだ名前ちゃんっ・・・!」

そういう東堂の注意の声も少しうわずっていて、こらえようともこらえきれない吐息が私たちの間をはしる。
するすると伸びてきた東堂の手は私の手の上にそっと重なって、この行為をあおるのだ。

「あっ・・・だめだってば・・・!」
「名前ちゃん少し力を入れすぎだぞ。もうちょっと肩の力を抜くのだ」
「そう言ったって・・・!」

今へたに力を抜いたら、そのまま全身の力が抜けてしまいそうになる。ぐっと力のこもった私の手をほぐすように重なる東堂の手もどこか汗ばんでいて、この行為の背徳感を象徴しているようだった。
息を噴きだしてしまいそうになるのをふうふうこらえる私にそっと東堂がつぶやく。

「バレてしまうぞ」

ひゅ、と喉の奥で音が鳴った気がした。
ゆっくり首を横に振る私に、東堂は小さく頷いてみせる。ならば息を飲めと、目でも訴えられた。せっかくここまでしたのに、今バレてしまっては台無しだからだ。
一度小さく深呼吸をして息を整えてから、私はまたそっと手を動かし始めれば、今度は東堂が肩を震わせる番だった、

「くっ・・・ぅ、名前ちゃん、やりすぎだ・・・!」
「東堂だってこれじゃ物足りないくせに・・・!」

ラストスパート。
もう片方の手も使って、勢いよく動かしていく。バレないように。バレないように。顔へ手をすべらせれば、思いがつづられる。

「これ以上はっ・・・だめだっ、荒北に、バレてしまうっ・・・!」

穏やかな寝息をたてる荒北がベッドで眠っている。だめだと息を荒げる東堂も、その息遣いから興奮していることがわかる。それは私も同じだ。そろそろもう、耐えられない。荒北の部屋で、荒北に、

「あっ・・・もう無理だっ・・・!」
「私も・・・!」


















「あーーーーっはっはっはっ!傑作すぎ!!!東堂絵心なさすぎじゃなぁい!?」
「くっ・・・わははは名前ちゃんこそっ、このヒゲはっ、秀逸だ・・・!!!」

あーもう耐えきれない!あーもう無理!
ペンを放り投げてごろごろのたうちまわる私たちからは笑い声しかでてこない。ひーひー声をあげる私は荒北のまぶたに描かれた少女漫画風お目目に「ぶっふぉ!」息を吹き出しほっぺに描かれたぐるぐるマークを見て「ぶっ」東堂が涙を浮かべる。

「はー面白かった!久々にこんな腹筋つかったわ・・・」
「まさか罰ゲームが“寝ている荒北に落書き”とは思わなかったが、案外興奮するものだな・・・」
「さー帰ろ帰ろ」
「そうだな」
「・・・ア?なんでお前らがオレの部屋にいんだヨ。つかうっせェ」

あっ荒北が起きた!
ねむそうにくあっとあくびをする荒北に不審がられないようにそっと逃走をはかる。もうドアノブに手をかけている私たちの勝利は目前だ。

「おはよう荒北!今日もいい天気になるといいね!」
「・・・そうだネ?」
「朝ごはんはしっかり食べるんだぞ!」
「うっぜ」
「うざくはないな!」

荒北がねぼけてる間に部屋からの脱出に成功した私たちはその10分後首根っこつかまれて土下座を強要されるはめになるとはまだ思いもよらないのであった。





10分後
「いやこれ福富も新開も含めてやったゲームの罰ゲームだから!」
「てんめええええこれ水性だろうな!?」
「あっそこらへんはぬかりないです!」
「福チャァン!この罰ゲームいくらなんでも酷くナァイ!?」
「ヒゲ、似合って、いるぞ、・・・ぷっ」
「福チャァアアン!」