「東堂、東堂、お願いがあるの」
「なんなりと言ってくれ名前ちゃん!」

他ならぬオレの可愛い彼女である名前ちゃんがお願い事をしてくるとは珍しい!
名前ちゃんがオレを頼ってくれたという喜びそして普段よりずっとしおらしくもじもじとこちらを伺う上目づかいのコンボをかまされて、陥落しない男がいるだろうか。いやいない。
両手を広げてどんとこいアピールをするオレに「ありがとう」としおらしくつぶやいた名前ちゃんは誰にでも愛されるだろう唇を震わせて言ったのだった。

「野球拳しよう」

語尾にハートマークでもつきそうなくらいの甘い声色で。


**


「東堂よっわ!じゃんけんよっわ!」
「名前ちゃんが強すぎるんだ・・・!」

時は放課後、オレの部屋である。
欠片も予想をしていなかった名前ちゃんからのお願いごとにオレの目が点になったのは言うまでもないことだが、「や、野球拳・・・?」事態をうまく飲み込めないオレに「じゃんけんで負けたら服を脱いでいくゲームだよ。東堂が勝ったら・・・」ちらり、スカートをほんのりたくし上げられて、ごくりと喉が鳴ってしまったのは健全なる男子高校生ならば全うな反応だと声を大にして言いたい。しかも大好きな彼女にそんなことをされて。断るなんて。お願い、と念押しされてしまえば頷くことしかできなかった。だが勘違いしてほしくないのは名前ちゃんのお願いだからこそ了承したということだ!オレは誰にでも頷くような男ではないぞ!自分を正当化しているわけでもないぞ!

「少し肌寒いな・・・」
「あとはパンツだけだもんね〜」

そう言った名前ちゃんは、愛らしい唇で弧を描くように笑った。
・・・情けないことに、今のオレは名前ちゃんの言う通りパンツ姿である。
なんてことはない、じゃんけんに負けまくったオレが服を脱いだというだけの話だ。肝心の名前ちゃんは靴下と制服のタイをとっただけ。2勝したことは覚えているが、何敗したかはもう覚えていない。床に散らばる服が負けた回数を示しているのだろうが、もはやそれはもうどうでもいいことだった。

「よし、じゃあ次いくよ〜」
「えっ!?まだやるのか?!」
「当たり前でしょ」
「いやしかしオレはもう脱ぐものが・・・」
「そのパンツは飾り?」

ビッと指をさされて、ぐっと息を飲みこんだ。
オレが下着姿になった時点でこのゲームはもう終わりだと思っていたのだが、名前ちゃんは、次オレが負けたら、・・・パンツを脱げと言っているのだろう。さ、さすがにそれは・・・まずいのではないか・・・!?名前ちゃんは制服をほぼ着たままで、オレだけパンツ一丁の今の段階でもまずい気はするが、それ以上に、

「パンツを脱いだら下半身を露出することに・・・」
「なるね」
「さすがにそれは、」
「・・・だめ?」

うっ、オレが名前ちゃんの上目づかいに弱いと知っての犯行だ。確信犯だ。何歩か詰め寄ってきた名前ちゃんが小首をこてんとかしげる姿に流されそうに・・・なってはならん!ならんだろう!いくら名前ちゃんの頼みといえど、

「うーんそうだなあ・・・じゃあ次東堂が勝ったら私もパンツ脱いであげる」
「!???」

次オレが勝てば、ほぼ制服を着ている名前ちゃんの、パンツ抜きだと・・・!?少しかがめば見えてしまうではないか・・・!?そんなスカート丈の下に何も履いていないだと・・・!?まずい、めまいがしてきた。オレはなんてことを考えてしまったんだ・・・。自分を戒めるためにも大きく息を吸って、

「よよーいの」
「まっ待て、」
「よい!」

とっさに手を出してしまった。

「やったー!私の勝ちだー!」

ま、負けた・・・!反射的にグーを出してしまった数秒前の自分を殴りたい。チョキを出していれば今頃ノーパン名前ちゃんを・・・ではない!ではないぞ東堂尽八!

「じゃあパンツ脱いで」
「わ、わっはっはまだオレにはカチューシャが」
「は?カチューシャはノーカウントだから」
「いやでも、」
「東堂」

甘くて、しかし毒を持ったような響きだった。オレの目の前まできた名前ちゃんは、そっとオレの上半身を撫でる。ぞわりと背中を何かが駆け巡って、それが快感だったと気付くころにはもう毒されていた、ということにしておいてほしい。

「本当に脱ぐのか」
「じゃんけんで負けちゃったもんね」
「何故そんなにパンツにこだわるのだね・・・」
「東堂だってパンツ脱いだ私見たいでしょ」
「そ、それは・・・」

違うと言い切れない自分が憎い。
はやくはやくとせかす名前ちゃんの視線が下半身に集まれば集まるほど、オレは腹筋に力をいれなければならなかった。
(た、勃つな勃つな勃つな勃つな・・・!)
名前ちゃんに欲に浅ましい男だと思われたくない。そう、これはゲームの一環なのだ、下半身を露出することくらいなんてこない、そもそも名前ちゃんが望んでいることなのだから、恥ずかしがることなんてなにもない、し、妙な気を起こすんじゃない東堂尽八!今日の昼ご飯を思い出せ!魚の煮つけがとても美味しかったな!

「手伝うね」
「はっ?!」
「えいっ!」

名前ちゃんの手が伸びて、オレの履いているパンツと肌の間に指が入る。待ってくれ、という声は喉で渋滞し、気付いた時にはオレは名前ちゃんに下半身を露出していた。
う、わ・・・
思わずよろけてベッドに後ろ手をつき腰かけてしまったオレの足の間にまさか名前ちゃんが入るなんて予想外すぎて理解に感情が追い付かない。満足そうにオレの中心を見つめる名前ちゃんに、もう昼ご飯のことを思い出す余裕なんて残っていなかった。

「わ、おっきくなった」
「みっ・・・!見ないでくれ・・・!」
「嫌だよ」

あまつさえ、オレの足をぐい、と広げた名前ちゃんは興味津々な様子でオレの、下半身の、中心に視線をよこしている。
(勃つな勃つな勃つな・・・!)
比較的まだ通常営業の中心部も、このまま保つにはどうしても限界がある。だって名前ちゃんに見られているのだ。

「も、もういいだろう・・・」
「え〜」

中心部を隠そうと手を伸ばせば、その手を名前ちゃんに絡めとられる。名前ちゃんに触れられているというだけで身体は錯覚を起こし、その暖かな右手の温度に下半身が反応してしまうのはもう腹筋程度で抑えられるものじゃなかった。じわじわと反応し始めている中心部を、見逃してくれる名前ちゃんでもない。

「・・・興奮してる?」
「・・・、」

してないといえば嘘になるが、

「これ以上煽らないでくれ」
「ふうっ」

煽らないでくれと言ったばかりなのに何故中心部に息を吹きかける名前ちゃん!?
下半身にダイレクトに響いた刺激に腰が震える。

「またおっきくなったね」

嬉しそうに言われても、もうどうしたらいいのか分からんぞオレは!
だいたい名前ちゃんはこれからどうしたいんだなんなんだなんで名前ちゃんだけ制服を着たままでオレは全裸なのだいや野球拳で負けたからだがそもそもなんで野球拳をやりたいなんて言い出したんだ制服を着こんだ彼女の前で浅ましくも勃起してしまったオレは情けなさすぎやしないかなんだか目頭がすこし熱いぞ・・・

「触ってもいい?」

しかしオレの内心なんて知る由もなく名前ちゃんはまた爆弾を落とすのだ。
部屋でこんなことをするなんてダメだでも名前ちゃんが触りたいと言っているオレ自身も触ってほしいと思って、いる・・・。

「ありがとう東堂、大好き」

麻薬のようなその響きに、もうどうにでもなれと焼き切れた理性が考えることを放棄した。