「フッ・・・聞けよお前ら、今日、」

し〜〜〜ん
松野家宅、六つ子部屋。六人全員揃っているはずの部屋で不特定多数に話しかけたにも関わらず何の反応がなくてもカラ松の心はまだ揺るがない。

「聞けよお前ら、今日町でな、」

し〜〜〜ん

「聞けってば!」

2回目で揺らいだ。
ばしっとちゃぶ台を叩いたカラ松に、同じくちゃぶ台で書類を書いていたチョロ松がびくっと跳ねる。

「あーっ!文字が曲がっちゃったじゃないか!」
「っつーかチョロ松、さっきから何熱心に書いてんだよ。また履歴書かあ?お盛んですねーっと」
「履歴書じゃないよ、にゃーちゃんの初回限定版CDに付属されてる豪華特典応募券だよこんな曲がった文字じゃにゃーちゃんの特典を受け取る資格なんてなくなっちゃうよ!」
「とりあえずセッ〇スしてえって書けば嫌でも人の目に留まるんじゃね」
「そういうのはやめろって言っただろ!」
「いいから俺の話を聞いてくれ!」

六つ子の話題はあっという間に脱線する。山手線から新幹線のレールまでぶっちぎりそうになった会話をカラ松は大声でとめることに成功した。おそ松の胸倉につかみかかったチョロ松は動きをとめ、チョロ松につかみかかられたおそ松はカラ松を見る。十四松と野球盤で遊びながら「カラ松兄さんどうしたの〜?」とトド松が話題をふってくれたところで、カラ松はサングラスをかけなおし前髪をかきわけやたらかっこつけたポーズで言った。

「今日町でナンパされた」
「冗談は顔だけにしろよ!」
「そのつっこみブーメランだからやめた方がいいよ」
「うっそマジでどうして天変地異か!?」
「そのかっこうのカラ松兄さんに話かけるとかそんな勇者がこの町にいたの!?」
「えっなに?野球?野球のはなし?カラ松兄さん野球すんの?」

わっといっせいに詰め寄ってきた兄弟達をカラ松は片手で制す。

「まあ待て・・・順を追って説明してやる」
「うわっ何その上から目線腹立つわ〜」

トド松の本音もさらりと流す余裕が今のカラ松にはある。前髪も一緒にさらりと流し、カラ松は続けた。

「そう、これは天からの啓示、解き放たれた運命に「そういうのいいから」はい」

仕切り直し。

「今日歩いてたら、一人の女に話しかけられた」
「マジか」
「痛いって言われたとかそういうオチじゃなくて?」
「その女は俺を知っている風で、」
「うっそそれちょっとナンパぽい。常套句じゃん」

やいのやいの。盛り上がる5人の輪。
続き続き!と身を乗り出す兄弟達にカラ松の機嫌はうなぎのぼりってなもんだ。フッ、今俺は尊敬の視線を浴びてるぜ。なんたって次男だからな。

「そんで?そんでどうなったの?!」
「100円くれと言われた」
「は?」
「は?」
「は?」

ここで周りのテンションが急降下である。
クモの子を散らすようにさ〜〜っと離れていった兄弟達に気づかないカラ松はまだ続ける。「なんだよカツアゲされただけかよ」「でも100円だけとかおかしくない?」「まあそうだな俺でもカツアゲするとしたら万単位でいくよな」「そういうゲスな話やめて!」カラ松はまだ続ける。

「あのガール、猫のサンマ代とか言ってたな・・・」
「ますます意味わかんないんだけど」
「サイコパスにはサイコパスが近寄ってくるんじゃない」

がたっ

「ん?」

サンマ。そのワードが出た時だった。それまで会話に参加せず無言を貫いていた一松が立ち上がったのだ。「えっなに」「どうした一松」ざわっとする兄弟達をさしおいて、一松はカラ松に近づいていく。

「きっとサンマを通して俺と深い仲に・・・ヒッ!?」

そしてどすんとカラ松の隣に座り、無言の圧力である。びくっと身体を跳ねさせたカラ松は一歩後ずさるがそれを逃す一松ではない。

「で」

続きを促す一松に、カラ松の唇が震えた。

「さ、サンマは200円だと言っていた・・・」
「で」
「だけどその時俺は無一文で」
「で」

無一文でかっこつけるとか痛いよね〜ひそひそ耳打ちするトド松にうんうんとおそ松が頷く。

「100円の代わりに、俺のブロマイドをあげてきた」
「いっっったいわ〜!サイコパスじゃん!」
「でもこんなに受け取れませんって喜んでたぞ!」
「そいつもサイコパスじゃん!」
「そのブロマイドどうやってあげたの?」
「もちろん茶封筒に入れて開けた時の楽しみが増えるようにだな・・・」

あ〜それってもしかしてお金と間違えたんじゃないの。
・・・と思ってもめんどくささが勝ってこれ以上会話に入らないのがトド松である。

「と、とにかく俺とガールは次に会う時の楽しみを糧に生きていくんだよっ!」
「チッ」
「ヒッ!」

一松が舌打ちをしてカラ松がビクつく。
多分この場で一番カラ松の出来事を理解しているのは一松だけど、一松は多くを語らない。そして多分一松の次にこの状況を理解しているだろうトド松は「多分これ一松兄さんとカラ松兄さんを間違えた女の人がサンマ代100円の代わりにお札を渡されたと思ったら中身がカラ松兄さんのブロマイドでドン引きしたオチなんだろうな」とすべてを悟っていた。

「ねえねえ野球すんの?野球?サンマで!?」