泥棒猫にサンマをかっさらわれ、マスク男から100円玉を受け取ってから早数日。
結局あのあと魚忠に戻りトト子ちゃんのお父さんとお母さんに理由を話したら、猫にかっさらわれたサンマをとり返したところでお客様には出せないからもういいよ名前ちゃんの心意気だけ受け取っておくねとそれもそうだと思うような言葉で諭され私の心は見事に晴れ・・・るわけがなかった。結局魚忠としては100円の損失が出ているわけで私の時給がピー円だとして100円稼ぐのにピー時間かかっているわけでそれを一瞬で無に帰したあの泥棒猫を許すわけにはいかないのだ!たぶんあの泥棒猫の飼い主だろうマスク男にもう一度出会うことがあったらあと100円支払ってもらうことで私の心はようやく快晴になる・・・ってな感じの意気込みで過ごしてたから、道端であの目のマスク男を見つけた時は思わず声を出してしまったのだった。

「あーーー!あの時の!」
「えっ?」

指をさして声をあげれば、きょとんとして人差し指を自分に向け「俺?」としらばっくれるマスク男今日はマスクしてないみたいだけど!しらばっくれないでくださいよ!と詰め寄れば、数歩後ずさるマスク男。

「忘れたとは言わせませんよ・・・」
「えっいやっ、えっ?」
「今日はマスクじゃなくてサングラスしてるんですね」

びしっとサングラスを指さしてやれば、それまでキョドキョドしてた男は数秒固まった後フッと息を吐き前髪をかきわけ電信柱によりかかりやたらかっこつけたポーズで吐き出した。

「フッ・・・これが新手のナンパか」
「ふざけないでください「ごめんなさい」

思ったより低い声が出ちゃったなと思ったら食い気味で謝られてちょっと拍子抜ける。前もこんな雰囲気だったっけ・・・?でも顔は一緒だ、間違いない。妙な確信と相手の受け身な態度から私はいけるぞ・・・と内心ガッツポーズする。これは100円払わせることができるぞ!

「この前のサンマの件なんですけど、今の時期サンマって200円なんです」
「お、おう・・・?」
「なので、この前払っていただいた金額では足りないんです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」

サングラスに右手をあてて左手を私の前に出してストップ要請される。なんですか、と返す私に男は言うのだった。

「何の話だ」
「あーまたそうやってしらばっくれる!あなたにとってはただの100円かもしれないですけど、時給で働いてる私にしてみれば100円ってすごくおっきいものなんですよ!分かりますか!?」
「いやっだからっ」
「自分の猫のことじゃないですか!いいから100円払ってください!」

ずんずん詰めよれば電信柱に背中をぴったりくっつけて逃げ場を失った男は困ったようにまたキョドキョドしながらポケットに手をつっこんだ。「!」そしていいことを思いついたように口元をつりあげてから、またフッと息を吐き前髪をかきあげやたらかっこつけたポーズをとる。

「ガール、今の手持ちはこれしかない。これで勘弁してくれないか」

そしてポケットから出されたものは、茶封筒だった。
固めの触り心地、多分おそらくこれは何枚かお札が入っている・・・!?

「こ、こんなに受け取れません!私は100円いただければいいんです!」
「遠慮するなガール、ほんの気持ちだ」
「でも、こんなに沢山・・・」
「いいんだ。この町に住む以上、またどこかで出会うこともあるだろう・・・また、その時に。アディオス」

そう言って男は去って行った。なんだかあっけにとられてしまって思わず見送ってしまったけど、・・・こんな大金受け取るわけにはいかない!ああもうとりあえず男が言う通りまた会うこともあるだろうから100円差し引いた金額をいつでも返せるようにしておかなくちゃ・・・って茶封筒を開いてお札を取り出してしかし出てきたのはお札じゃなくて、

「ブロマイド!?自分の!?イッタイわーーーー!」

100円の価値もありゃしねえのだけど!?
地面に叩きつけたらぺにゃんと情けない音がした。