高校生活といえば枕詞に“華の”がつくくらい華やかで青い春でピンク色な時期である!
高校生を始めて2年になる私にももちろん華の時期はやってきた。
風になびくはピンク色のさらさらな髪の毛。ちょっとからかうだけですぐ赤くなるほっぺ。綺麗に切りそろえられた少し長めの前髪から覗く瞳はとても凛々しい。つまり何が言いたいかというと私の高校生活に華をそえてくれているのは春市くんであり春市くんマジ天使でありその天使がたった今廊下の角を曲がる瞬間を目にしてしまったわけで追いかけないわけにはいかないぜって話なわけです!

「春市くーん!春市くん今日も素敵に無敵だね髪の毛ふわふわだね!」

んもう春市くんの髪の毛たまんなーい!両手をつっこむとふわりと指の間をすりぬけていく触り心地のよさに世界が嫉妬する!

「あれっちょっと大胸筋も育ったんじゃない?プロテインおいしい?」

後ろから髪の毛を触った流れで大胸筋をくまなくチェック!ここでびくっと体を跳ねさせる春市くんソーキュート!毎日部活頑張ってるもんねそりゃ大胸筋も育つよね私も春市くんの良質なタンパク質接種を支援したい・・・!

「ねえ春市くん可愛い顔を見せてちょーだい!」

はやくはやくちょっと恥ずかしくて赤くなってるはずの顔を見せてくださいな〜!あれっ春市くんちょっと前髪切っ・・・・・・

「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・お兄さん」

私が男だったら絶対玉ヒュンした。





「ねえ、なんとか言えば?」

それはまるで地の底から這い出てきたような仄暗くもぐつぐつと煮えたぎった言葉だった。なんてポエムかましちゃうくらい私は動揺していた。正座を強いられた両足が痛い固まるな両手震えるな声帯・・・。

「な・・・なんとか」
「馬鹿なの」
「痛い!」

合皮の塊もといスリッパもピンクの悪魔に握られればただの凶器だ。
同じ血を分け同じピンク色を授かっているというのにこっちのピンクの悪魔こと亮さんは春市くんの百倍怖い!ただでさえ百倍怖いのに今は普段より更に百倍怖い!なぜかっていうと私が春市くんと間違えてとんだセクハラかましたからですよ先輩様に怖い!!!

「でもかよわい女子の頭スリッパではたくなんて亮さん酷い!すごいいい音した!」
「気安く呼ばないでくれる」
「倉持だって亮さんって呼んでるじゃないですか」
「話そらそうとしても無駄だから」

うっばれた。息がヒュンした。
スリッパという凶器を手のひらでパンパンやりながら私を見下す亮さんはまさにピンクの悪魔だ。私が不審な動きをしようものならその獲物でスパーンとやるんだろう・・・頭頂部が・・・めり込むくらいに・・・。話をそらすついでにさっと目をそらしたら「誰が目をそらしていいって言ったの」目ざとい、実にめざとい・・・さすが技巧派セカンド視野が広い・・・!

「まさか春市がこんなセクハラにあっていたとはね」
「合意の上ならセクハラでは、」
「お前俺の弟が上級生に弄ばれることを良しとする変態だって言ってんの?」
「いいえそんなめっそうもありません!」

がばりと頭を下げて前言撤回すれば亮さんのシューズが目に入った。案外綺麗にしてるんだな・・・。

「お前毎回春市にこんなことしてるの」

なんて現実逃避かましてたその瞬間である。
やばい確信来た。ここでなんて答えれば正解なの・・・!?せめて及第点は欲しい・・・!
▼3枚のライフカードが現れた!
ちゃららん。脳内で音が鳴る。
1枚目。「はい」駄目だよここで素直に認めたらスリッパが脳天直撃するに決まってる・・・。
2枚目。「いいえ」駄目だあからさまな嘘は亮さんの機嫌を損ねるだけでスリッパが脳天直撃するに決まってる・・・!
ならば3枚目に賭けるしか道は残されてない・・・!

「亮さんもご存知の通り弟さんの春市君は大変魅力的な人物でして見かけたら追いかけずにはいられない存在感を醸し出しており」
「で?」
「毎回してます・・・」

平仮名ひと文字で論破されてしまった・・・。3枚目、「言葉巧みにしのぐ」がびりびりにちぎられていく・・・。
ならばもうここは誠意を見せるしか・・・!なんの不純もないんですよただ単純に春市くんをかわいがりたいだけなんですよ髪の毛触ったり大胸筋撫でまわしたのはけして下心があったわけではなくただただ応援したい気持ちだけなんですよと捨てられた子犬をイメージしながらきらきらと亮さんの細めがちな瞳を見つめてるけど「気色悪い」亮さんこれだもんな!?「だから亮さんさっきからひどすぎですってばあ!」わっと顔を両手でおおってスンスン鼻を鳴らしてみても「嘘泣きで何とかなると思ってんの?」頭頂部がスリッパの先っちょの硬いところでぐりぐりされるだけで事態はなにも好転しなかった。

「春市くんななら私が悲しそうにしてたら『大丈夫ですか』って慌てて寄ってきてくれるのに」
「あいつ見る目無いね」
「春市くんは優しいんです!」

ちょっと声をあげたらパァンと亮さんの手のひらでスリッパが爆ぜたもんでとりあえず咳払いしてごまかすことにしました。

「あのう・・・どうしたら許してもらえますか・・・」

嘘泣きのなごりでまだ顔を覆っている手のひらの指の隙間からそっと亮さんを見上げてみれば、まだだいぶ怒ってらっしゃる様子が伺えます。玉ヒュンしそう。玉ないけど。なんつって。なんて言ってる場合か。

「亮さんの意外とたくましい大胸筋の感触とか、指通りいい髪の毛のこととか、倉持に言いませんから・・・!」
「何で倉持が出てくるの」
「もう亮さんには抱き付きませんから・・・!」
「春市にも手出さないって言えないの」
「それは・・・」

パァン!
亮さんの手のひらでスリッパが躍った。

「なるべく努力して手を出しません!」
「随分あいまいだね」
「すびばせん」

頭頂部をぐりぐりしてたスリッパがほっぺをぐりぐりしにきた。喋りにくいよ亮さん・・・。
っていうか純粋な疑問なんですけど、

「なんで亮さん段ボールいっぱいのスリッパ抱えてたんですか・・・」
「玄関まで持っていくように言われたんだよ。日直だから」
「亮さんも日直とかやるんだ・・・」
「敬語」
「やるんですね!」

亮さんも人の子だったんだなあ「失礼なこと考えて「ません!」なんとなく制服姿の亮さんが段ボールを抱えてたっていう事実が物珍しくて、つい身体を傾けて亮さんの足元にある段ボールを覗いてしまう。おお、結構スリッパ入ってるんだなあ・・・重そうだなあ・・・履く分には感じないけど、ちりも積もれば山となるっていうも あっいいこと思いついた!

「亮さん、このスリッパ運ぶの手伝うので今日のところは見逃してください!」

もうこれしかない!
言うが早いが私は痺れる足を引きずりながら立ち上がり段ボールをかっさらって「お、重い・・・」亮さんの隣に立つ。少し膝を曲げて亮さんを上目づかいで覗き込みながら「お願いします・・・」ってかわいこぶったら亮さん無言でスリッパの素振り始めたんだけど
何するつもりですかまさか私をホームランするつもりですか膝曲げたのがプライドにさわりましたかしかしさっきまで正座してたもんだから痺れてる足からどんどん力が抜けていくぞこれはまずい!?

「亮さん助けて!」

びりびり痺れる右足からがくんと力が抜けた。バランスが崩れる。亮さんの少し驚いたような表情が見えた。慌てて手を伸ばせば段ボールが床に落ちる。ばらばらとスリッパがぶちまけられていく音をBGMに、気づいたときにはちゃんと亮さんの大胸筋の中にダイブできていた。ぼすん。腕を引っ張り上げられた勢いのまま着地完了だ。はあいやな汗かいた・・・。

「あーびっくりしたありがとうございます亮さん」
「俺を驚かせるなんてお前何様なの」
「とかなんとか言っちゃって、亮さんすこぶる優しいですね!」

毒舌家で後輩の頭頂部遠慮なくスリッパで叩けるピンクの悪魔系先輩だけど、転びそうになったらちゃんと助けてくれるんだ!「大胸筋ありがとう・・・」ほっぺぐりぐりしたら耳ちぎられるかと思いましたけどね!?

「い、痛い・・・!」
「調子に乗らない。スリッパ拾って」

私が床と熱烈なキッスを交わさなかったかわりに廊下にぶちまけられたスリッパを指さして亮さんは言う。ああ何故段ボールがあんなに遠くに・・・。スリッパは犠牲になったのだ・・・。

「現実逃避してる暇があったらさっさと拾う。俺の貴重な休み時間まで潰すつもり?」
「めっそうもございません!」

一生懸命スリッパを拾い集めながら思う。さっきの驚いた亮さんの顔、レアだったな〜写メって倉持に見せたらアイスくらいおごってくれそうな感じだったな〜亮さんのいろんな表情も見て見たいな〜!


CHANGE!
「あれっ・・・兄さんに苗字さん、こんなところでどうし・・・スリッパ・・・?」
「あーーーっ春市くーーん!春市くんの大胸筋って今どのくらい育って」
「春市に何するつもり・・・」
「ひっ」