今私は月本くんの部屋で教科書を開いている。月本くんの部屋で月本くんとふたりきり。勉強会ってなんて素敵な口実なんだろう!正直ドキドキしてXだのYだのなんてまるで頭に入ってこない私とは違って、真剣な顔をして問題を解く月本くんは、とても、かっこいい。目元をふちどる眼鏡も、鼻も、ゆるりとむすばれた唇も、全部全部かっこいい・・・ってつい見とれていたらいつのまにかカリカリとペンをはしらせるBGMがきこえなくなっていて、あれ?って思った時にはばっちり月本くんと目が合っていた。びっくりして目をそらした私を月本くんが見逃してくれるわけがないんです。

「どうしたの」
「いやっ、なんでも」
「さっきから一問も進んでないよね」
「そうだね・・・」
「分からないところ、あった?」

少し身を乗り出してノートをのぞいてくる月本くん、

「わっ、分からないところが分かりません・・・」

ばか丸出しな返答をしつつ月本くんが近づいた分のけぞってしまった私を見て、月本くんはゆっくり元の位置に戻ったあと、

「苗字さん」

ぽんぽんと自分の膝を叩いた。
それが何の合図か知ってる私は、もっとドキドキしながら月本くんに近づいて、月本くんの膝と膝の間にもぐりこんだ。月本くんの胸に背中をあずければ、腕が私の前にまわってくる。私はこれが1番好きだ。そして月本くんは多分そのことを知っている。

「・・・へへ」
「嬉しそうだね」

顔の上から月本くんの声。だって好きなんだもん。ゆっくり顔を動かして見上げれば、またまた目が合った。それを合図みたいにして、月本くんの手もゆっくり動いて移動する。
・・・あ、いい雰囲気って、やつかも・・・。
きたるべき衝撃にそなえてきゅっと目を閉じるけど、やってきたのは予想してなかった衝撃だった。月本くんのひんやりとした手のひらがつまんでいるのは、いつもの、ところじゃ、なくて、

「・・・少し太った?」
「月本くんひどい!」

慌てて月本くんの手をお腹からはがせば、「・・・ごめん」って言われたって含み笑いしてるのばればれなんだから!背中越しにぷるぷるしてるの丸わかりなんだから!

「月本くんのばかっ」

確かにちょっとぞ、ぞ、増肉しちゃったけれども・・・そこはデリケートな問題なんだから・・・!今更胸触ろうとしても遅いんだもんね!ゆるゆると上がってきた手のひらをつねってやれば、月本くんの手がぴたりと止まった。

「べっ、勉強しに来たんだもん」
「うん」
「今から本気出すから・・・」
「うん」

うんしか言わない月本くん。何を思ってるんだろうと顔をあげたら、なんというか、その表情は、反則だと思いました。

「月本くんレッドカード・・・」
「僕卓球部だよ」
「知ってるよ」
「ねえ、苗字さん」

またゆるゆると月本くんの手が動きはじめる。思わずびくっと跳ねちゃったけど、またつねってやろうと思ったけど、月本くんが私のほっぺにほっぺをくっつけてすりっとするから、それは私が2番目に好きなことだから、もういいやって思ってしまうのだ。

「月本くんずるい・・・」
「それは苗字さんも同じだよ」

ばさりと顔にかかった髪の毛を、月本くんの指がひろう。優しい左手が髪の毛を耳に誘導して、あらわになった耳たぶを、月本くんの、唇がおおう。ぶるりと震えたの、気づかれちゃったかな・・・ホックをはずしやすいように少し身体を浮かせた私も、もう、たいがいだ。

「月本くん、好き」
「僕も」

勉強会って、なんて素敵な口実なんだろう