ふと触れあった手は確かな意志を持っていた
指先に触れるのはテーピングの感触、ほんのりと伝わる体温
顔を上げれば交わる視線 高鳴る心臓

まるでほんの少し時間が止まったような錯覚まで感じつつ、残った理性が笑顔をつくって「…離してくれないかな」「それはこちらの台詞だ」笑顔をつくって「いいから離してよ」「何度も同じことを言わせるな」笑顔をつくって「すみませーん!この人変質者なんですけどー!」「ふざけたことを大声で言うな馬鹿が!」笑顔なんか作れるかボケェエエエ!


「悪いけど緑間、これ買うの私だから」
「何を言っているのだよ。これを買うのはオレだ」
「いやいやこれ先に見つけたの私だからね」
「よく見てみろオレの方が先に触っているだろう」
「え?何時何分地球が何回回った時?」
「小学生かお前は」
「うん分かったありがとうじゃあ買ってくるね」
「何が分かったのか理解に苦しむのだよ。買わせてたまるか」
「あのね、今日の私にはこれが必要なの」
「馬鹿を言え、オレの方が必要としているに決まっている」
「・・・」
「・・・」


「「オレ(私)の方がこれ必要としてるよな(ね)高尾(くん!)」」


「え、えー…そこでオレに振るのかよ…」
「何のんきにジュース飲んでんのなめてんの?」
「仕方ないからお前の意見を聞いてやると言っている。ジュースを飲むのをやめて早く答えろ」
「何でふたりともそんな上から目線!?ジュースに罪はねえよ」
「いいから早く答えて。まあ私に決まってるけど」
「何を馬鹿なことを。オレに決まっているだろう」
「つか今日のラッキーアイテムって何?どこででも手に入れられるもんじゃ………。木彫りのうさぎ」
「そう、木彫りのうさぎ…!そんな珍アイテムどこで見つければいいの?って絶望したのも早20分前。まさか通学路に木彫りのうさぎが売ってるなんて。見つけた瞬間高鳴る心臓」
「いつも愛用させていただいている骨董店といえ、木彫りのうさぎなど…と疑ってしまった自分を恥じる。しかし伸ばした手は重なった」
「お前ら気が合うのか合わないのかどっちなんだよ」
「合わないに決まってるじゃんトラックで轢いてやろうか」
「宮地先輩あたりに頼めば快く引き受けてくれそうだな」
「分かった分かったオレが悪かったですすんませんした!」
「というわけで買ってきます」
「買わせるか」
「はァー…」
「なんなのだよ」
「分かった、分かったよ緑間。おしるこ1本で手をうつわ。高尾が」
「おしるこ1本とラッキーアイテムではレートが合わんな」
「えっじゃあ3本…いや5本でどうだ!もうこの欲しがりさんめ!頼んだ高尾」
「いや頼まれねえよ!?」
「そもそもオレはおしるこで手をうつとは言っていない」
「もー!いいから私に買わせてよ!私が運命の人と巡り合うために必要なの!これは!」
「ふざけるなオレの今日の人事はこのラッキーアイテムにかかっている。他をあたるのだよ」
「緑間が他あたればいいじゃん!」
「他の店に行って木彫りのうさぎがあるとは思えん」
「おいそれだと矛盾してるぞ私に他の店を勧めといてあるとは思えないとか」
「…」
「目そらすな妖怪下まつ毛」
「だっ…れが妖怪下まつ……なのだよ!」
「ぶっふぉ!なっ、ぶっ、ようか、ぶっ、ぎゃーははははは!」
「騒ぐな高尾!!!」
「我ながら抜群のネーミングセンス。よーし買ってくるー!」
「待てェ!」
「ちょっ、首つかまないで、しまっ、絞まってる絞まっ、ぐぇえ」
「人を出し抜こうとするからなのだよ!」
「したまつ…ぶっ、ひー!腹いてー!…つかあれ?ふたりともカニ座だっけ?」
「何を今更言っているのだよ」
「いや私カニ座じゃないけど」
「…なに?」
「え?」
「うさぎの木彫りがラッキーアイテムなのはカニ座だよな」
「当たり前なのだよ」
「…」
「…貴様」
「確かそっちのラッキーアイテムはうさぎのぬいぐるみじゃなかったっけ」
「…てへぺろ」
「それが謝罪だというならばお前に常識について説教をしなければならないな?」
「間違いくらい誰にだってあるさ!だって人間だもの」
「それでオレが納得すると思うか」
「あーはいはいごめんなさい!おしるこ3本おごるから!高尾が」
「はぁ…まったく朝から余計な体力をつかったのだよ。5本だ」
「だってさ高尾、頼んだ(はぁと)」
「やっぱオレの聞き間違いじゃなかったヨネ!」
「じゃあ私はうさぎのぬいぐるみを手に入れなければならないので!またいつか会おう」
「ああきっと数十分後教室で会ってるだろうなっていうか逃げんなあああ」
「高尾」
「え、何その手。真ちゃん…?」
「あったかーい方を3本だ。早くするのだよ」
「マジもうオレかわいそう!」