だい、はっ、けーん!
って叫びたいのをがまんして壁の影に隠れ事の成り行きを見守ろうとしているのはオレこと高尾和成です。
たりー授業も終わってやっと部活に行けるぜと真ちゃん誘おうとしたらその肝心な真ちゃんがすでに教室にいなくてそこでオレのホークアイを発動させた結果校舎裏に来ちまったわけだけど?そこにいた真ちゃんが?まさか女子と?一緒にいるなんて?思ってもしなかったわけで…!
真ちゃんに彼女がいるなんて聞いたことねーし、てことはこのシーンあれだろ?ひとつしかねーだろ?
それはつまり、告白…!
まさかあの緑間を好きになる女子がいるなんて思いもしてなかったけど(真ちゃんごめん)まあよくよく考えてみれば背は高いし顔はそれなりに整ってるしおは朝信者のことをぬかせばプラス……になるのか?真ちゃんすまんやっぱよく分からん。
ってまあ今それはおいといて、問題はこの先の展開だ。人の告白シーン覗くなんて野暮だとは思うけど部活に真ちゃん連れてかなかったら先輩にどやされるしとどのつまりオレきょーみしんしん。
告白された真ちゃんがどんな反応示すのかちょー気になるし、やっぱアレか、今オレはバスケが1番なのだよ色恋沙汰にうつつを抜かしている場合ではないのだよ(声真似)とか言っちゃう系?いやーにくいね、真ちゃん!
なんて思ってたらおーっと、女子が息を吸った気配!来るぞ来るぞ、告白来るぞ!


「あのっ、緑間くんって、童貞?」


あれちょっとオレ思春期真っ盛りすぎたかな。
女子の口からあまり聞くことのない単語が聞こえた気がするんだけど。ちょっと顔を覗かせて真ちゃん見てみれば、いつもの無表情プラス半開きの口で固まってらっしゃった。(〜〜〜〜っ!!!!)あんな真ちゃんの顔、珍しすぎ……!!!爆笑しそうになるのを必死におさえる。ここで声上げてオレがいることバレてなんかもういろいろ台無しになることは避けたいわけ。壁に背中預けてしゃがみこんで腹おさえてとりあえず必死なオレはしかしオレが思春期真っ盛りすぎじゃないことを確信する。
真ちゃんがあんな顔するってことはつまりさっきの台詞はオレの聞き間違いじゃないわけで、真ちゃんがあんな顔するってことは言葉のとーり童貞ってことか?いやまあそれはおいといて問題は女子がなんでそんな質問したかってことだ。なんなの?真ちゃん痴女にでもつかまったの?


「おーい、緑間くん、おーい」
「………」
「緑間くんってばー」
「………」
「とりあえず脱がしてもいい?」
「………ふざけるな!」


あ、真ちゃん目覚めた。
痴女子のフラチな発言で現実に戻ってきたらしい真ちゃんはびくりと一瞬身体を跳ねさせた後我に返ったみたいだった。
つかオレ、ここで気づいたことひとつ。さっきから真ちゃんに絡んでる痴女子の横顔とか声にすげー馴染みがあるわけで?同学年っつーか?隣のクラスっつーか?クラスどころか家が隣っつーか?つまりあいつ、


「いきなり呼び出したと思ったらどういうつもりなのだよ苗字」


そう、苗字……ってアレ何で真ちゃん苗字の名前知ってるわけ?!あの真ちゃんが隣のクラスの女子の名前を覚えてるとは思えねえんだけど!ってことはつまり真ちゃんもあいつのこと少なからず気にかけ「帝光時代から何も変わっていないとはなげかわしいのだよ」あ、そういやあいつ帝光中に行ったんだっけ。ふむふむ。それで少し納得する。クラスの女子の名前だってろくに覚えてなさそーな真ちゃんだもんな、でも中学時代からの知り合いなら覚えててもおかしくねーか。呆れたようにため息を吐く真ちゃんに「そんな数ヶ月で人格変わったらそっちの方が驚きじゃない〜?」物怖じすらしない苗字。まそりゃそーだな、人間数ヶ月やそこらで性格変わったら苦労しねーよ。


「ていうかその反応、まだ童貞なんだね!」


で、本題に戻ると。
苗字の発言にまたびくりと反応した真ちゃん。「くだらん」おーっと黙秘権!きびすを返した真ちゃん、これはこのまま苗字を無視して部活に行く寸法かー!?「くだらんくないよ〜」しかし苗字も負けじと食い下がる、背後から伸ばした手はそのまま真ちゃんの股間に……っておいおいおい!


「やだ緑間くん立派なものをお持ちね!高校生になって成長した?」
「………」
「あれ?ちょっと、緑間くーん?」


むぎゅう、そんな効果音がつきそうなくらいに苗字が真ちゃんの股間をわしづかみにした瞬間の真ちゃんの表情ったらない。固まるのは当たり前、点になった目、半分ずり落ちたメガネ、そんでもって顔面蒼白………腹の底が一瞬で熱くなる。やべえこれ我慢できる気がしねブッフォ!!


「ギャーハハハやべえ真ちゃんその顔永久保存!」


ズームして、写メ!


「あれ、高尾くんじゃん」
「よお。つかお前痴女子全開じゃねーか」
「やだ褒めないでよ!」
「褒めてねーよ」
「……貴様らァ!」


パシャッ
いやもうこれ観念して出ていくしかねーわ、と壁の陰から出て真ちゃん激写したらまた現実に戻ってきたらしい真ちゃんの大声が飛んだ。「苗字、手を離せ!」「えー、残念」青筋浮かべる真ちゃんに、苗字が股間から手を離す。そのまま手をぐーぱーしておそらく感触を確かめてるんだろう苗字はオレの視線に気づくと手を差し出してきた。お?


「握手する?」
「なんでだよ」
「緑間くんの巨根にあやかりたくないの?」
「あやかんなくてもオレのも充分巨根だぜ」
「下品なのだよ…!」


ずれたメガネをかけ直しながらぷるぷるうち震える真ちゃんってのも相当貴重だ。いつもクールぶってる真ちゃんがここまで取り乱すのも珍しい。こりゃこいつら中学時代からなーんかやらかしてたな。好奇心が首をもたげていく。なんだなんだ、楽しくなってきたじゃねーの。


「いやあまさか真ちゃんと苗字が仲良しだったとはねー」
「仲良しなどではないのだよ!」
「えっあーんなことやこーんなこともした仲なのに!?」
「過去をねつ造するな!」
「真ちゃん照れんなって」
「嘘はこれから本当にしていこう…?」


お、出た女子の上目づかい。
そりゃ真ちゃんと目を合わせようとしたら大抵の女子は自然と上目づかいになるだろうけど、やっぱ上目づかいってのは健全な男子高校生なら多少なりともドキッとするもんだろ?苗字に見つめられた真ちゃんは、ゆっくり左手を上げた。そしてその手はそのまま苗字の頭に乗せられて、


「いいいいいい痛い痛い痛い痛い痛いって緑間くん!」
「ふざけるのも大概にするのだよ…!」
「ギャーハハハ撫でてやんねーのかよ!」


ギリギリギリギリって音がでそーなくらい苗字の頭を締め付ける真ちゃんの青筋が今にもぶち切れそーだ。…つかぶち切れそうで気づいたけど、そろそろ部活いかねーと先輩たちぶちギレんじゃね…!?


「真ちゃん、お楽しみ中わりーけど、そろそろ時間」
「誰が楽しん……何!?クッ、遅刻するわけにはいかないのだよ…!」


えー、もう行っちゃうの?と名残惜しそうな苗字は真ちゃんに締め付けられていた頭をさすっている。「いやー真ちゃんが楽しそうで何よりだわ」「だから楽しんでなどいないのだよ!」「でもラッキーアイテムが親友の幼馴染の痴女だったら困ることないよ緑間くん?」「………。そんなラッキーアイテムないのだよ!」「いや一瞬でも迷うなよ」そしてお前は自分で痴女って認めんな!「ネタだよネター」ついさっき堂々と真ちゃんの股間握ってた奴にネタって言われても素直に受け入れられるほどオレできてねーよ!
と、まあ小走りで3人、体育館に向かっているわけですが。


「何故お前もついてくるのだよ」
「お、バスケ部見学?」
「んーん、これ」
「なっ…!」


オレの横を走ってる真ちゃんの目がまた点になった。
苗字が差し出したその紙は、


「入部届けだと……!?」
「いやー、しーちゃんにマネージャー誘われちゃって。マネージャーの人数足りないからしんどいってさ。最初はめんどくさいから断ったんだけど、まいう棒10本と緑間くんの使用済みタオルで手をうつことにした」
「安いのかなんなのかわかんねーよ!」
「つっこみどころはそこではないのだよ!」


おお、あからさまに動揺してる真ちゃん珍しー!
これはあれだ、毎日ネタに尽きなさそうではあるな。おーおー、自然とにやけてきちまうぜ。


「そんじゃ苗字これからは部活でもよろしくな!」
「…監督に言って却下してもらうのだよ」
「そりゃわがまま3回分じゃ足りねーと思うぜ?」
「えっなにそれわがまま制度なんてあるの?じゃあ私のわがまま10回分で緑間くんの童貞を」
「口を慎め!」


とっさに真ちゃんが投げつけたアヒルのぬいぐるみ(多分いや確実に今日のラッキーアイテムだなこりゃ)が苗字の横顔にヒットして、ぷきゅっと鳴いたアヒルがまたシュールで笑いを誘うわけです。





ワンダフルデイズ!
「ギャーハハハ!ほんともう!お前らおもしろすぎ!」
「ピヨ太郎ー!」
「緑間くんさすがにピヨ太郎はないわ」
「ぶっ!」
「………………!!!!!」