今日はエイプリルフールである。
つまり嘘をついても許される日だということだ。しかし自分に嘘をつくことなく正直に生きているオレには特に縁もない日だと認識していたが、「エイプリルフールを名目に愛を確かめ合える日でもあるぞ」とバキュンされたらのらないこともないなと思ってしまったりも、する。

「苗字!実はオレはお前のことが嫌いだ」

もちろんこれは嘘なので、オレは苗字を大好きだということである。
苗字ならそれくらいわかってくれるだろう。なんと言ったってオレと苗字の付き合いなのだ。恋人という関係になって早数か月、もちろんもう手を繋いだことは言うまでもない。・・・しかし反応がないな。もう1度念押ししておくべきか。

「なあ苗字、オレはお前がきら


バシッ!


目の前から苗字が消えて、音がきこえて、む?と思った時には頬がじんじんと自己主張していた。あれ、痛い。
苗字を捉えるために顔を動かそうとすればグイッと首元を尋常ではない力でつかまれ、更に引っ張られ、目の前には苗字の顔、ぶ、ぶつかってしまうぞ・・・!と思った瞬間、びたりと止まったオレの身体、距離にして数センチ。

「・・・なんだって?」

にこりと花のような可愛らしい笑顔には似合わないドスのきいた地を這うような声色に、身体中から血の気が引く音を聞いた気がした。まずいぞ、これは、地雷を踏んだのではないか。

「悪かった!オレは苗字が大好きだぞ!」
「それで?」
「だっ大好きで大好きでたまらない!」
「もう一声」
「エイプリルフールだからと言って調子にのってしまった!愛しているぞ、苗字!」
「よし」

どさり、首元の拘束がなくなったオレはそのまま重力に従いしりもちをつくのみである。そして凍土のような視線とともに、

「私は東堂のこと本当は嫌いだよ」
「なっ・・・!?」
「嘘つかれた方の気持ち、分かった?」

全力で首を縦に振れば、手招きする彼女がうつる。

「嘘は身体によくないな・・・」
「東堂のあほ〜」
「あほではないな!」