2 | ナノ


 




 高野冷螺と言う存在は、現代社会にはあってはならないものだった。
 高野冷螺と言う人物は、この時代に居てはいけない存在だった。
 高野光太と言う存在は、この時代に存在している普通の一般人だ。
 平凡な生活を送り、普通の中学二年で来年は受験生で勉強もほどほどに頑張っている本当に平凡としか言いようが無い普通の少年。
 周りにはきちんと友人といえる存在がいくつか存在しており、中々楽しそうな生活を送っている。




「光太。そこもわかんないの?」

 昼休み。
 食事を終えた光太とその友人である佐々木和樹は机と繋げて勉強をしていた。
 茶色いさらさらな髪を女子のように一つに結んでいる和樹は、そうしなくても女子に見えるほど美しい。そして、大金持ちの息子であるから女子にモテている。
 その反対に、真っ黒い髪は耳辺りしかない、平凡な顔に平凡な家庭に生まれた光太。どうして二人は仲良くなったのかと言うと、元々なんのコネを持っていたのかは不明だが二人の両親が仲がよかったというのと、和樹はもともと人見知りで、光太にべったりと張り付くように後をついていったからである。
 昔は光太が兄的存在だったのに今では和樹が光太の兄的存在で、何時からか光太は和樹に対する『恨み』を心の中に潜めていた。

「俺、馬鹿だからさ」

 はは、と苦笑して見せるが心の中では負の感情でいっぱいだった。
―――俺に構うなよ。俺といて何が楽しいんだよ
 思わず口に出したくなるその気持ちを一生懸命に押さえ込み、そんなことないよ、と綺麗に微笑んで光太が解けなかった問題をいとも簡単にスラスラと解く。
 そんな苦痛な昼休みは、光太には何時間もあると思えたが以外に早く終わる。予鈴のチャイムがなり、和樹は机を戻し始める。
 光太はそれをただ虚ろな見ているだけ。
―――妬ましい。いっその事殺してしまいたい
 いつからだろうか。和樹に対する友情が恨みになってしまったのは。
 いつからだろうか。光太は和樹を避けるようになったのは。
 考えても、考えても和樹に対する恨みと言う感情しかでてこない。
 嗚呼、妬ましい。羨ましい。俺がどんなに努力してもお前に一歩も近づくことなんてできないのに
 どうして、どうして、どうしてお前だけが。俺はこんなにも頑張っているのに。嗚呼、殺してしまいたい――――

 そんな日常が続いている頃。いつものように誰も居ない家の玄関で鍵を取り出し、ガチャリと開ける。
 三年前、光太が小学六年生になるまえ、不意に親がいなくなった。蒸発したのか、誰かに誘拐されたのか、はたはただの旅行なのは誰も知らない。リビングにあるテーブルの上に手紙だと思われる紙が一つだけあって、それ以外に両親の物は全て消えていた。

『少し用事があるから家をでる』

 当時、小学五年生の光太は何も理解できなかった。いや、正確には言葉の理解はできていたが、意味が判らなかった。
―――どうして、どうしてお父さんとお母さんいないの?どうして一人ぼっちなの。さみしいよ、さみしいよ。帰ってきてよ…っ
 その頃からだろうか、和樹が急に大人らしくなって光太に沢山声をかけてきたのは。何度も和樹は光太を自分の家に同居させようとした。
 光太が壊れてしまうのは見たくない
 和樹なりの優しさだった。だが、光太の答えはいつもNOだった。

「お父さんとお母さんが帰ってくるまで、俺、ここにいる」

 光太なりの意地でもあったのかもしれない。
 現実を受け入れたくなかったのかもしれない。
 それでもよかった。両親の物は何も無くても、家はある。自分はここにいる。二人を待っていればいつか必ず帰ってくる。
 そう信じて、三年が経った。

 がちゃ、とドアノブを開けて玄関で靴を脱ぎ、いつものようにリビングへ行った光太は絶句する。
 両親が帰ってきたわけではない。
 ちょこん、とテーブルについていた四つの椅子の一つに、少女が座っていただけだった。
 それでも、不法侵入には変わりは無い。小学三年生にみえるその少女は、光太に気がついたように銀色の髪の毛で隠していない左目で綺麗に微笑んだ。
 少女の容姿は全く持って可愛らしい。銀色の髪は地毛らしく、光太から見てもさらさらしているのがわかる。
 その髪を二つ結びにし、少し大きめな薄紫色のリボンでとめてある。そのせいか、髪の毛は肩までにしかないように見える。そして、服装は着物だった。普通、足を隠している着物だが、少女の場合、ミニスカートのように丈は短い。

「お主が、高野光太か?」

 彼女は微笑んで問いかける。
 光太は急なことのため、色々混乱しつつ頷いた。

 それが、全ての始まりだとも知らずに


2010 07 23


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