壊れた世界に


(砕蜂) ※夜一和解前






先の見えない暗闇。

貴方は今、何処にいるのですか。
貴方は今、誰を想っているのですか。


私の存在は、まだ――


貴方の中に在りますか?





ゆっくり、静かに目を開けた。
顔に当たる陽が眩しく、思わず目を細めた。

数回、瞬きをするとはっきりしてくる視界。



「………夢、か」



酷く懐かしい、夢。

血にまみれた世界の、暖かな日常。

あの方がまだ此方に居て、私がまだ彼女の部下だった頃の。


浮かんだのは貴方の後ろ姿。

幸せだった、あの頃。
貴方のようになりたいと、手を伸ばした。
貴方の下で働けることが、何より私の誇りだった。

追いかけて追いかけて、命を持って必ず護ると誓えた。


けれど貴方は居なくなった。


走って走って走って、足がもつれても口の中が切れてもどうでもよかった。
辿り着いた先に貴方がいてくれれば、それでいいと思ったのに。


勢いよく開けたそこは何もなくて、空っぽで。
混乱よりも先に、冷めていく自分の熱を感じた。

あの日、紛れもなく、私の中で生きる糧となっていた太陽は堕ちた。


忘れるはずがない。


けれど、貴方は違ったのですね。

私の存在など、欠片も残さず綺麗に。
私達とは別の世界、貴方がその目で見て聞いて感じたモノに、塗りつぶされて消えてしまうのか。

そうであって欲しいのかも知れない。
そうでなければ、また貴方の優しげな声を聞けば、私の心などすぐに変わってしまいそうで。

貴方が消えたことで、私の世界はとうに壊れていたというのに。

加速する憎しみを止める最善の策があるのなら、それはきっと貴方か私か、どちらかの喉を掻き斬るまで終わらない。


その後の光など、望んでいないのだ。


「――…く、そ…」


よく解らない。

望んでいないはずなのに、こうしてまだ頭の中で暖かく、彼女の声が響き渡る。


消えろ…っ、消えろ――…!


貴方に裏切られた事実は、独りになったこの世界で痛いほど認識出来るのに。

いくら叫んでも、最早私の中で一つの世界と化した貴方を消すことは出来なかった。
憎しみとはまた違った、この感情の名も、私は知りもしない。

噛み締めた歯の、軋む音だけがやけに響いた。
暖かな陽射しとは裏腹な、酷く冷めた私の心。


「結局…私は、」


どちらにせよ、貴方には届かない。

確信めいたその想いは、強さでも距離でも言えることだった。
認めたくないだけで、心の何処かでそう想っていたのかも知れない。

認めてしまえば、私の存在価値など塵も残さず消えるだろうから。



だからこそ、――進むしか。



己に残された只一つの価値を、貴方にぶつけるその日まで。









END.


************


夜一離反直後の砕蜂。
心の中にある夜一への信頼が、裏切りという形で終わってもまだ微かに残る部下としての心。その心がやがて憎しみだけに変わる過程に、曖昧で不安定な己の感情に度々振り回されていた、ということも当然あったのではと。






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