The cat envies the cat!


(夜一×砕蜂+日番谷)
ほのぼのギャグ






いつも通り隊首会を終え、隊舎へ真っ直ぐ帰るその途中だった。





「――砕蜂」


珍しい、と思った。
隊舎まであと少しの所まで来て振り返ればそこには先ほど隊首会で顔を合わせたばかりの日番谷の姿があった。
相変わらずの仏頂面でこちらへゆっくりと歩いてくる。
だがいつもと明らかに違うのは、その腕の中にある、何か。


「……何だ」

「あー…、1つ聞きてぇことがあってな」

「?」


心なしか、言いづらそうに頭を掻きながら口を開く日番谷。
暫しキョロキョロと定まらなかった視線は、小さなため息の後、腕の中にある小さな箱に向けられた。


「お前、確か猫、好きだったよな…」

「っ!?…ぁ、あぁ、嫌いではないが…」


猫、という単語をあげただけで無表情だった顔がぱっと変わった。
本人はこんな言い分だが、顔にはっきりと猫好きだと書いてある。
何となくはっきり告げるのは可哀想なので日番谷はそのまま続けた。


「…なら、」


パカッと腕の中にあった箱が開けられた。
その途端、顔を出したのは小さな黒猫。


「っ!!」

「…コイツ、暫くそっちで預かってくれねェか」


急なことだし無理なら全然いいんだが、と続けようとして日番谷は固まった。正確には目の前の砕蜂を見て。
頬を僅かに染め、手は胸の前で堅く握られておりいつもの威圧感さえ感じさせる切れ長の強い瞳は錯覚なのか、少し潤んでいるようにも見えた。
黒猫に向けられるその視線が余りにも、言い知れぬ熱を持っているようで日番谷は若干引く。
僅かに開いた口から「よるいちさま…」と聞こえたような気がしたが、怖いので気の性ということにする。


「あー、と……餌とか世話の仕方なんかも全然わかんねェし無理ならべつ」

「いや、こちらで預かろう」

「…っ、あぁ、いいのか?」

「全く問題ない、何ならこれから先面倒を見てやっても良いが」


言葉を途中で遮られたにも関わらず嫌悪感よりもどこか恐怖心さえ感じられるほど、なぜかその声色に有無を言わさない何かを感じて日番谷は変な汗が流れるのを感じた。


「…なら、一旦コイツは渡しとくぜ」

「あぁ」


悪いな、と短く言い箱を手渡した。黒猫は大人しいようで、砕蜂の顔を見るなり箱の中からにゃぁと可愛らしい鳴き声をあげ目を細めた。


(!っか、カワイい……)

もはや砕蜂の目は愛らしい猫に釘付けになっており日番谷は「また、来る」とだけ言い残しその場を離れた。




隊舎に着き、とりあえず執務室の大きな長椅子に座り箱の中にいる猫を抱いてみる。
日番谷が言うには朝、十番隊隊舎前に箱に入れられた状態で捨てられているのを発見し、そのまま放っとくわけにもいかず連れ帰ったらしい。
が、隊舎で飼うのに抵抗を感じ猫好きである貰い手を捜していたとのことだった。


「……お前、夜一様に似てるな」


胸に抱き、頭を撫でてやればゴロゴロと喉を鳴らしすり寄ってきた。
副官である大前田は別の仕事に出かけており今はいないため、小言を言われるはずもなく、そのため砕蜂は暫く仕事そっちのけで猫を可愛がっていた。


「……?」


ふと慣れた霊圧を近くに感じた。
それは先ほど噂をしていた張本人であり自分の最も敬愛する主のもの。



「――邪魔するぞ」


「……っぇ、ぁ、って夜一さま!?」



タンっと小気味よい足音と共にいつもの如く突然現れた主に危うく腕の中の猫を放り投げそうになった。
しかも開け放たれたのは扉ではなく窓。


「ぇ、えと…っ」

「久しぶりじゃな!……っと、それはなんじゃ?砕蜂」


挨拶もそこそこに夜一の視線は砕蜂の腕の中で気持ちよさそうに寝入っている黒猫に向けられた。


「あ、これは…先ほど日番谷から譲り受けたものです」

「ほう、で…何故また猫なんじゃ?」

「何でも、隊舎前に箱に入った状態で置いてあったそうで…恐らく、捨てられたのではないかと」

「それは、結滞な奴がおるもんじゃのう…」


腕を組み眉を寄せる夜一の姿に砕蜂も相槌を打つ。自分たちが触っても大人しい様子から人慣れしていることがわかるため、以前どこかで飼われていたのだろう。

ふと腕の中の黒猫がひょいっと顔を上げ砕蜂の頬を舐めた。


「!ぁ、こらお前……」

「……随分慣れておるのう」


にゃおんとまた可愛らしく鳴く猫に砕蜂はまた表情を緩める。いつもならキリッと威圧感を感じさせる砕蜂の表情も今や完璧に緩みきっており、しかも仕事そっちのけで猫を構っている姿が信じられないのか夜一はじーっとそれら一部始終を見つめた。


どれくらい経ったのだろう。
未だ腕の中の猫を構っている砕蜂は初めと変わらない様子で穏やかだ。

それはいいのだが――


「……そいふぉーん」

「はい、何でしょう夜一様」

「…暇じゃー……」

「あ、奥の戸棚に茶菓子が置いてありますよ」

「………」


猫を撫でる手はそのままに告げられた言葉は確かに夜一に向けられたものだったが意識は猫に集中しているためどこか曖昧なやり取り。
いつもなら仕事を真っ先に終わらせて自分の相手をする彼女だからこそ、今の状態は非常に珍しい。


だからこそ、面白くないのも事実で。


「………」


一応か、出されたお茶を長椅子に寝転がりながら啜り夜一は考えた。この状態もいつもなら「行儀が悪いですよ」と言われてもおかしくないのだが今は期待できそうにない。

猫と儂と、どちらが――

浮かんだ言葉はさすがに言えるわけがないので夜一は些か子供じみた悪戯を考えた。


よし、と夜一は姿勢を正す。


目の前の砕蜂は猫を構っているお陰でこちらへの意識は薄い。


(……今が、チャンスじゃっ)


夜一はシュッと見事な瞬歩で長椅子から消えた。
と思えば次の瞬間には砕蜂と同じ長椅子に移動していた。


「……っぇ、ぇえ!!?」


突然隣に現れそれはかなりの不意打ちだったらしく、砕蜂は猫を抱えたまましゅばっと勢い良く夜一から離れた。
ほぼ条件反射で。


「……よ、夜一様?どどどどどうなされたのです、か…?」


長椅子の端に背中を預け砕蜂は顔をひきつらせて問う。

何といっても今の夜一の姿が、異様だったからだ。


「……砕蜂」

「は、はい……?」

「儂は猫じゃぞ」

「………は…?」

「猫じゃ」

「…………」

「猫じゃぞー…」

「…………」


長椅子に膝を抱え横たわっている姿はさながらいじけた子供のようで。
何というか、リアクションに困った。


「あ、あの…そのっ……」

「猫じゃと言っておる」


明らかに猫ではなく人間なのだが、当の夜一は至って平静で。

まだいつもの猫姿ならわかるのだが、と思った矢先だった。



「―――砕蜂、入るぜ」


「っ!!」



微妙な空気のまま、開けられた扉から現れたのは日番谷だった。


「様子はど……って何だこれ」

「!!……なっ!貴様、夜一様にこれとは無礼にも程があるぞ!!」


くわっと先ほどまで固まっていてしかも緩んでいた顔が嘘のように鬼のような形相に変わった。
もはやこれも条件反射なのだろうが腕の中に可愛らしい猫がいるためかいつもの迫力は感じない。
「ぉ、ぉう悪い」ととりあえず謝る日番谷。


「……で、何なんだ」

「何とは、……何だ」

「いや、だからこの…空気?」

「………………私にも、解らぬ」

「………」


目の前には横向きに膝を抱えた夜一の姿と、それを避けるように長椅子の端に背中を付けている砕蜂。
よってどこか異様な空気が流れている二番隊執務室に、訪れるタイミングを見誤った、と日番谷は自分を呪った。


「儂は猫じゃぞー」


「「………」」



何だろう、もう訳が分からない。
入ってきたばかりの日番谷はこれはのるべきなのか無視すべきなのか真剣に考えた。

暫しの沈黙の後、夜一はやっと、しかしスローモーションのようにゆらりとした動作で顔を上げた。


「よ、夜一…様?」

「…もう、よいっ」


遠慮がちに名を呼んでくる砕蜂を無視し、夜一は突然ずいっと体ごと近付いた。
それはもう顔と顔が付きそうな勢いで。


「砕蜂っ!!」

「…ッ、!?」


更に両肩を掴まれ何がなんだか分からず混乱する砕蜂、ドアップで映る夜一の顔はこれ以上ないくらいに殺気立っている。心なしか霊圧にどす黒い色がついているようにも見える。


「そんなに猫が好きならば、儂を構えばよいじゃろうッ!!」

「!!!??」


ヤバい、帰りたい。
日番谷は心底そう思った。

当の砕蜂は言葉の意味が分かっていないのか、はたまた分かっているからこそなのか完璧に固まっている。


「…もう、知らん」


と思えば途端ガクンと大袈裟にうなだれて見せる夜一。
流石に不安になった砕蜂が声を掛けようとしたときはもう遅かった。

夜一はグスンとワザとらしく目頭を抑えて見せるとその場から一瞬にして消えた。

もちろん瞬歩で。


「ぇ、ぁ…ちょっ、夜一様っ!?」


目の前でいきなり消えた夜一に途端慌てだす砕蜂。


「くっ、……っええぃ日番谷!!」

「な、何だ」

「この猫を頼むっ」

「は?いや、ちょっと待て俺は」

「黙れっ、私は夜一様を追わねばならぬ」

「お、おいっ…待て、砕蜂ッ!!」


言うや否や腕の中にいた黒猫を呆気に取られ立ち尽くしていた日番谷に押し付け砕蜂は一瞬にしてその場から消えた。


(――確実に遊ばれてるだろあれはっ!)


既に「夜一様ーっ」と遥か遠くの方から聞こえる声に日番谷はため息をつくのも忘れて固まる。


「…何で、こうなるっ」


腕の中の黒猫を抱き上げて見れば、先ほどまで自分を構っていた砕蜂が消えたからか、寂しげににゃおんと鳴いた。


「………ど、どうしろってんだよ」


流石に今から隠密機動の二人を追うのは、到底無理だろう。

日番谷は盛大なため息の後、とりあえず自隊に帰ることにした。


もちろん、猫も連れて。


果たして二番隊とはこんなにも落ち着きのなかった所だっただろうか、と日番谷は切実に思った。










END.


――――――――――――


姫苺様へ捧げます!!
ちゃんと夜一さんは嫉妬してましたか!?
何か負けず嫌いなだけの夜一さんになってたらスミマセン。
あと…日番谷くんがとばっちりポジションで申し訳なかったです(笑)

書いてて楽しいものになりました。
良ければ貰って下さい。
リクエストありがとうございました!







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