黒猫人形受付中
(砕蜂(+部下)
+京楽+浮竹+日番谷)微ギャグ
「砕蜂隊長っ!!」
「軍団長閣下!」
隊首会の帰り道、ぞろぞろと一番隊の廊下を各隊隊長格が歩みを進める中、砕蜂は見知った霊圧がこちらに近づいてくるのを感じた。
遙か彼方から聞こえた声とは裏腹に姿はもうそこまできていた。
ゆっくり振り返ると、そこには全身黒ずくめに覆面といった見知った顔が二人、三人。
「………どうした」
抑揚をつけずに問えば、いつもよりずっと緊張した声が返ってきた。
それも他隊の隊長格が集まっている中、注目を浴びているとなれば例え席官であっても恐縮するだろう。
「いえ、えっと……これをッ!!」
現れるなり瞬時に片膝をついて何やら大きな紙袋を差し出す隠密機動、並びに二番隊の隊士。一人が膝をついたまま高々と差し出せば負けじと「こ、これもっ」「私の方こそッ」と次々と大中小様々な袋を掲げてくる自隊の隊士たち。その包みは、シンプルなものもあれば、綺麗にラッピングされたものまであった。黒一色の出で立ちに顔まで覆われた布、しかも大柄な男たちといった面々とあまりに不釣り合いな可愛らしいそれに、何というか、不気味で仕方ない。
「な、なんなのだ。これは」
いつもと違う部下の何かよくわからない切羽詰まった様子に若干引き気味な砕蜂だったがとりあえず、根本的な部分を尋ねてみた。
すると一人の隊士がぎょっと顔を上げる。と思えば目が合った瞬間思いっきり逸らされた。
わずかに眉を寄せた砕蜂に気づくと従順な部下たちは慌てて言葉を紡いだ。
「……はっ、ひ、日頃からお世話になっております砕蜂隊長に何か恩返しをと考えてみたのですが」
「……」
「じ、自分たちでは良い案が浮かばなかったもので…では、と大前田副隊長に伺ってみたところ」
「こ、こういったものを好みになると聞きましてっ」
ばっと勢いよく袋から取り出されたのは自分が敬愛する主、夜一の影響で最近集め始めた、そう――黒猫のぬいぐるみだった。
「…なっ」
一気に顔に熱が集まるのを感じた。
だが驚き頬を染める砕蜂以上に部下たちは覆面の下からでも真っ赤に染まっているのがわかった。
「…で、では自分たちはこれでっ」
「お、おい待てっ――」
シュッと見事な瞬歩でその場から瞬く間に消えた部下たちが置いていった包みはそのままにしばらく砕蜂は固まった。
た、確かに自分はよるい…黒猫は好きだが勤務中にこんな形で、というのは咎めなければならない、いやしかしここは礼を言うべきかっ…
と好物を目の前にしてもあくまで真面目な砕蜂はぐるぐる悩む。
「いやー、モテモテだねえ砕蜂隊長」
「!」
桜色の着物をなびかせいつの間にか隣にいた八番隊隊長、京楽春水。
見れば後ろにはお馴染み、十三番隊隊長浮竹十四郎がいつもの笑顔で砕蜂の手の中の黒猫を見つめていた。
(め、面倒くさいやつらに見られた…)
砕蜂は心の中で悪態をつくと慌てていつの間にか手の中にあった黒猫のぬいぐるみを包みに戻した。
「ははは!いいじゃないか。可愛らしい人形だな、砕蜂!」
「わ、私は別にここここんなものなどっ…」
無邪気に肩をぽんぽん叩く浮竹を砕蜂は睨みつけるがわすがに頬が染まった状態の今、なんらいつもの迫力などなく言い淀んでしまった。
「だ、だいたい今は勤務中だ!後でしっかりと咎めねば…」
「その割にはしっかり抱えてんじゃねェか」
「!」
いつの間に現れたのかそこには十番隊隊長日番谷冬獅郎がいた。
「な、何のことだ」
「素直じゃねェって言ってんだ」
「き、貴様に言われたくなどないわッ」
「あァ!?」
珍しく声を荒げていく二人にやれやれといった様子で京楽と浮竹が間に入る。
「まあまあ、部下に慕われるのは悪いことじゃないんだからいーじゃないの」
「日番谷隊長も大きな声ださないで、楽しくいこうじゃないか!」
「お、俺は別に」
「あ、お菓子あるんだ。いるかい!?」
話を聞け!と返す暇もなく浮竹はいつものように袖からぽんぽんとお菓子を取り出す。どこからでてくるのか瞬く間に日番谷は大量の菓子に埋もれた。
「砕蜂もいるかい!?」
「…私は結構だ」
少しいつもの冷静さを取り戻した砕蜂は引きつった顔で答える。ふと隣に目を向けると相変わらずニヤニヤと気持ちの悪い笑みを向けてくる京楽。
「で、では私は仕事に戻らせてもらう」
「あぁ、お疲れ」
片手を上げていつも以上に爽やかな笑顔で答える浮竹の言葉の後、シュッと見事な瞬歩で砕蜂はその場からあっという間に消えた。「真面目だねぇ〜」と京楽がボヤく。
ちゃっかり先ほどの包みも持ち去られているあたりさすが隠密機動と違った意味で感心する。
「…僕も七緒ちゃんにプレゼントあげようかなあー」
「お、それはいいな!」
「―――っつか、いい加減にしろォぉオッ!!!!」
ガバァッと勢いよく大量の菓子の山から顔を出したのは完璧に埋もれていた日番谷。
「ッおぉ、すまない」
これでは持って帰れないな!と些か的外れな返事と共にようやく菓子を出す手が止められた。こう爽やかに言われてしまっては無下に怒鳴りつけることもできないので、日番谷はひとつため息をつくと仕事に戻った。
END.