ait for a moment

(砕蜂+大前田+卯ノ花)ギャグ








ある日の昼下がり、二番隊の執務室。
大前田希千代は今、非常に困っていた。


「隊長ー」

「……」

「たーいちょー」

「……」

「隊長ってば」

「……」


午前中に完成した書類に判子を貰おうと砕蜂に話し掛けるが当の本人はというと、大前田の声など聞こえていないのか無言で書類と格闘していた。

いや、これだけ近くで呼んでんだから聞こえないはず、ないよな。

はぁー…とわざとらしく大きなため息をついても全く反応を示さない自隊の隊長を見て、大前田は自分に何か落ち度があったのか記憶を辿るが生憎全く心当たりがなかったことにまた困る。

仕方がないので一息つこうと引き出しからいつもの油煎餅を取り出しかじりつこうとした。


「――ッ!!?」


シュンッと空気の裂ける音がしたかと思うと手にした煎餅が口に入れる前に粉々に砕け散った。
ぱらぱらと煎餅だったものが床に散らばる。
驚いて周りを見渡せば壁には垂直に綺麗に刺さった苦無が1つ。


「…職務中に煎餅をかじるなといつも言っているはずだが。大前田」

「ッいやいやいやいやだからって物騒なもん投げねェでくだせえよっ!!」

「うるさい黙れ」


キッと睨みつけられたかと思えばまた風を切る音、「どわあッ」と情けない声をあげる大前田を一瞥して砕蜂はまた書類に向かう。
壁には2投目の苦無により串刺しになった油煎餅の小袋。
気にはなるが取りに行く勇気は、大前田にはない。


(やべえやべえやべえ俺マジで何した!?)


大前田は顔にも背中にもだらだらと冷や汗をかき身に覚えのない怒りの対象にされて内心早く仕事を終わらせてこの場から一刻も早く退却したかった、が、そのためには何としてもこの書類に判を貰わなければならないのだ。


(虚との戦いより、こえぇ…)


とりあえずいつもの大きなソファーに座り数枚残った書類に目を通すフリをして考える。


――どうしたら無傷で判子を貰えるか…


しばらく試行錯誤してみたが一向に良い案が浮かばず、大前田は今日何度目かのため息をつく。
隊長の機嫌取りも兼ねて茶でも入れるか、と席を立とうとした時だった。

コンコンと静かな音と一緒に扉の向こうから柔らかな霊圧と声。


「――砕蜂、いますか?」


「……卯ノ花か、入ってくれ」


開け放たれた扉の向こうからは四番隊隊長、卯ノ花烈の姿があった。
意外な来客に大前田は驚いたがそれより今の砕蜂の機嫌の方が気になる。


「…珍しいな」

「えぇ、今日は天気も良いですしたまには外に出てみようと思いまして」


そのついでに書類を、と相変わらずの柔らかい動作で卯ノ花は砕蜂に書類を手渡す。


「何かあったのですか?」

「……何がだ」

「そこの壁です」

「……」


言われて壁に目をやると先ほどの苦無が変わらず刺さっている。しかもその内の1つは串刺しにされた無惨な油煎餅の小袋。
あぁ、と砕蜂は大前田を横目で見る「ヒィィッ」と喉の奥から声が漏れそうなのを死ぬ気で抑えているのがわかる。


「…そこの馬鹿者がいつものように馬鹿者だっただけだ」

「そうですか」


それは大変ですね、といつもの柔らかい笑みで返す卯ノ花の様子に大前田は「こっちのセリフだ!」と内心突っ込みを入れたくて仕方がなかったがこの二人を敵に回したら本当の意味で命が危ないと思い、耐えた。


「これでいいだろう」

「はい、ありがとうございます」


そのまま立ち去るかに思えた卯ノ花だったが不意にくるりと振り向き砕蜂を見やった。


「…まだ何かあるのか」

「少し、気になっただけなのですが」

「……?」


訝しげな顔をし卯ノ花を見やる砕蜂だったが本人はいたっていつもの穏やかな顔をしている。


「先ほど二番隊舎から大きな包みが運ばれていくのを見たのですが…」

「……あぁ、それなら昨日の鍛錬の合間にいらぬ物を片付けておけと指示したのだ」


しばらく掃除などしていなかったからな、と顎に手を当て溜め息混じりに言う砕蜂に卯ノ花はやっぱり…と小さく呟く。


「……?それがどうかしたのか?」

「いいのですか、と言っておきたくて」

「?」

「…大事にしていらしたものではないのかと思ったのです」

「だから何がだ」


勿体ぶって言う卯ノ花に只でさえ今日の機嫌が悪い方である砕蜂であったため自然と言葉は尖ってしまう。


「……黒猫の可愛らしいぬいぐるみを、見かけましたよ」


「!!?」


ガバッと音がしそうなくらい書類に向けられていた視線が上げられた。その顔はほんのり赤く染まっており目はこれでもかというくらいに見開かれていた。
しばらくそのまま固まった後、ふっと口角をあげる砕蜂。

――なるほど、どうりで無いわけだ。

次いで今日一番の冷めた眼差しを、ソファーで固まったままの大前田に向ける。



「………大前田」

「……へ、へい」

「確か、物を運ばせたのは貴様だったな」

「…ッ!!そ、そうー…でしたっけ、」

「仕訳を、しておいたはずだが…?」


静かに立ち上がり霊圧を徐々に上げながらこちらに近づいてくる己の上司に大前田は震え上がった。
卯ノ花はというとこんな状況にも関わらず相変わらず柔らかい笑顔で一部始終を見守っている。


「――ちょ、ままま待ってくだせぇってば隊長ッ!確かに俺が指示しましたっスけど仕訳されてたのなんて言われなかったしッ」

「言われずともわかるだろうっ!!」

「えぇェッそ、そんな無茶なッッ!!」


両手をブンブン降ってこの本当に殺されるかもしれない状況を必死に言い訳し回避しようとするが最早遅い。
書類は砕蜂の霊圧により何枚かが宙を舞い壁は振動し始める。


「ちょちょちょ、ままままじで勘弁してくだ」

「――さっさと止めて来いッ!!」


ブワっと勢いよく解放された霊圧でビリビリと空気が揺れ、ヒいィィィィッと本日何度目かの情けない悲鳴の後大前田は一目散に部屋を飛び出していった。


「…やっぱりそうでしたか」

「すまぬ卯ノ花、世話をかけた」

「いえ」


先ほどの様子と打って変わって部屋は散らばった書類はそのままだがいつもの静けさを取り戻していた。

昨日、行われた二番隊執務室、資料室、各幹部の部屋、そして砕蜂の自室の清掃作業は仕事の合間の短時間で行われたものだった。
最近は任務で忙しない毎日が続いていたため清掃を疎かにしていたのもあるからだ。いらないものはできるかぎり廃棄するようにと、各部屋の物は大きな布やら風呂敷やらでまとめてあった。
といっても各自無駄なものはあまり部屋にも持ち込んでいないためあっさりとしたものだったのだが。


そして先ほどの問題。
廃棄物の運搬は業者に引き渡すため大前田に指示したのだが、どうやらいるもの、いらないものの仕訳が曖昧だったらしく間違えて一緒に引き渡してしまったらしい。

よりにもよって、砕蜂の黒猫グッズを。


クスと先ほどまで黙っていた卯ノ花が笑みをこぼす。


「……何だ」

「可愛らしいところも、あるのですね」

「…ッ!?」


途端に顔を赤くする砕蜂に卯ノ花はまた笑みを深める。


「では私はこれで」

「あ、ぁあ…」


弁明するタイミングも逃してしまったため、せめていつもの冷静さで振る舞おうとしたが見事に声が裏返り失敗。
優雅に去っていく卯ノ花を見送り、未だ赤い頬に手をやった。

と、いうか。


「ば、バレていたのか…」


もちろんそれは砕蜂の収集癖のこと。
今では二番隊数名の幹部にも知れ渡ってしまっているを砕蜂は知らない。
隊長格となれば最早言うまでもない。


とりあえず散らかしてしまった書類を片付けすっかり無残な屑と化した副官の好物を処分し、また筆をとる。


その後、大前田は必死で業者を追いかけ寸でのところで荷物を取り戻したのだが次の日執務室に入った直後、砕蜂に蜂紋華を付けられビクビクしながら1日を過ごしたとか過ごさなかったとか。









END.



――――――――――――


いろいろわかりにくくてスミマセン(笑)

朝から部屋にまとめてあった自分の黒猫グッズがいくら探しても見つからなくて不機嫌だったのです。砕蜂ちゃんて変なとこで子供っぽいよね、という話を書きたかったの。
っていうか自分黒猫ネタ好きだな…






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