世界の中のセカイ


(夜一×砕蜂)




ただ不思議だった。

光も指さぬ闇の中で、何故あんなにも眩しい笑顔を放てるのか。

何故あんなにも暖かなのか。


闇に同じく生きる者同士。
なのに余りに違いすぎて。


貴方の隣に立てば分かるのですか?
そこから何が見えるのですか。


何に対しても惹かれることなどなかった私が、初めて人に興味を持った瞬間だった。





「砕蜂」


そうやって耳元で呼ばれるだけで、心が跳ねるのを止められない。
悪戯に笑う貴方に毒気を抜かれるのもまた事実で、そんな自分に心底呆れる。


「どうなさったのですか、夜一様」


振り向いて声をかければ後ろから抱きすくめられた。
長い腕が肩と首にかかり、先ほどよりも大きく心が跳ねた。

それを承知の上で、尚も体を押し付けてくる夜一に砕蜂は途端に体が固くなる。


「暖かいじゃろう?」


耳元で聞こえる夜一の声に、緊張とは違った何かが心を埋めた。
穏やかで柔らかな、それでいて暖かい。
はい、と照れたように返せば途端に歯を見せて笑ってくれた。


「お主との時間が、そうさせるのじゃよ」


言われた言葉に驚き、巻かれた腕を無視して勢い良く振り向けば、それを予想していたのか、言葉を発する前に唇を塞がれた。
顔を赤くして、二の句を継げなくなった砕蜂に夜一は先ほどよりも無邪気に笑った。


「お主はいつでも暖かいっ」


ぎゅーっと頬を押し付けてくる夜一に慌てたように声をかけるが、それよりも主人の楽しげでどこか安心したような姿にこれまた反論する気が失せてしまった。

暖かいのは己に脈打つ血か、それとも心か。
汚れた血と、冷え切った心。
そんな事を考えてしまい、どちらをとってもはっきりと答えを出せなかった自分に酷く虚しくなった。
けれど、口を吐いてでたのはその場を誤魔化す言葉でもあり、また当たり前のようなそうでないような、真の言葉でもあった。


「……夜一様も、」

「ん?」

「とても、暖かいです」

「ははっ」


じゃろうな、とこれまた歯を見せて笑う姿は本当に子供のようだった。
その笑顔を見ただけで、もう既に先ほどまでの不安は消えていた。


「生きて、おるからな」


続けられた言葉に、自分の立場をたちまち痛感させられた気がして。
言葉の意味は考えるまでもなく、それは自分たちの心が、任務を終える度に噛み締める感情でもあったから。
死にたいわけでもないのに、心が独りでに震える。

なら生きたいのか?

それも分からない。
ただ漠然と、死神として護廷の隊長として、隠密の長として剣を奮い血を浴びる生。それが正義なのか、それとも悪なのかも解らない。何故ならそれを決めるのも死神であり、人だからだ。

貴方は優しいから、決してそんなつもりで言われたのでないのだろう。
だが、ひねくれた自分の頭は、貴方の言葉さえも汚していく。

いつからか、はにかんだような、痛みを伴った笑みしか向けられなくなったのは何故だろう。
いつか自分の、そんな部分が貴方を傷付けるのではないか。
いや、もう既に傷付けているのではないか。

自分には不慣れな事だと自覚していてもやはり、貴方の前では同じように笑っていたい。


同じ世界を、見ていたいのに。



貴方といる時間は確かに、幸せな時間であるはずなのに。
痛む心も無視する事など出来なくて。矛盾した心の奥でも確かに、貴方を愛しているのに。


考えれば考えるほど泥沼にハマっていく思考を、けれど簡単にすくい上げたのはやはり貴方だった。



「砕蜂」


全てを見透かしたように、酷く優しい声が降ってきた。
次いでふわりと頬に感じた、柔らかな熱。貴方の手だと解ったのは顔を上げて、こちらを安心させるような、穏やかな笑みを見てからだった。
それだけで、安心したようにほぐれていく体に、やはり自分にとって貴方は世界なのだと思った。



いつだって、やはり、暖かいのだ。


貴方と出会って、暖かな感情に触れた。
貴方と出会って、その眩しい笑顔を知ったから。


私は今、こうして、
貴方の前で、心穏やかに居れるのです。



世界というだだっ広い居場所だけでなく、暖かい時間と心をもくれた。




いつか私の方から、その暖かな心を返せる日はくるのだろうか。
貴方の側で生きること以外に、価値を見いだせない自分が、本当に心から笑える日はくるのだろうか。

その日のために、貴方は世界をくれたのでしょうか。


夢のような時間は曖昧でも、心には確かに、甘い感情と、痛いくらいの熱が残るのだ。








END.


世界をくれた貴方の、世界になりたい。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -