魔核(コア)奪還編

42


その発言にカチンときたハルカは、思いっきり顔をしかめて騎士に詰め寄る。自分よりもかなり背の高い男を相手に臆せず睨み上げて文句を言い始めた。

「こんな可愛いのが、なんであんなセンスゼロの下手くそすぎる絵に似てるって?おじさん目とか頭とか感性とか色々大丈夫?」
「なんだと!?」
「なんだとだって?おじさん耳、遠いの?へぇぇぇ、じゃぁ何回でも言いますよ?おじさん目とか頭とか感性とか色々大丈夫?」
「貴様……許さん!」

騎士は剣をハルカの喉に突き付ける。しかし彼女は変わらず睨み上げており、それがまた感に障った騎士は舌を打って剣を振り上げた。エステルが悲鳴のような声でハルカの名前を叫ぶ。ハルカは決して目を逸らさなかった。

斬られる。そう覚悟を決めたが、ハルカが斬られる事はなかった。すぐ目の前で赤みがかった黒髪が舞っている。かと思えば騎士はもう地面に伸びていて、アイナの細い足が見えた。華奢に思えるそれが、なんと容赦なく騎士の足の付け根に存在する男の象徴を蹴り上げる。それはもう思いっきり、力の限り蹴り上げた。

「私の親友に何しようとしてたんですか?たかがあの程度の事で剣なんか振り上げて、まさか斬ろうとしたなんて、言わないですよね?」

騎士は蹴り上げられた部分を両手で押さえて悶絶しており、アイナは追い打ちをかけるように冷笑していて怖い。その脇を通り抜けたユーリがリタを捕らえている騎士の背後に素早く回り、後ろ首に手刀を決めて気絶させた。

「今だ!」
「あ、こら、待て!」
「えい!」

またアイナに同じ所を蹴られた騎士が、両手で同じ所を押さえてその場にしゃがみ込む。急展開に思考も行動も付いて行けそうにないハルカは、アイナに手を取られた。引っ張られるまま生い茂る草木の中へ飛び込まなくてはいけなくなる。

背後でラピードが威嚇する声が聞こえたが、もう振り返っても見えるのは木々と草花だけ。ラピードの安否が気になったが、彼は自分よりも強いと思い直して前を見た。アイナの向こう側にエステルとリタ、その奥にユーリの背中が見える。つい先程まで居た場所が見えなくなるまで走ると、ユーリが足を止めたので全員走るのを止めた。

「振り切ったか」
「みたいだね。よかった」

ユーリとアイナは至って普通。けれどハルカとエステルとリタは、肩を上下させて荒い呼吸を繰り返している。ラピードはどうしただろうと思って後ろを振り返ると、長い尾を優雅に揺らしながら何事もなかったみたいに歩いて来た。やはり心配は杞憂に終わったらしい。

ハルカが呼吸を整えていると、同じ様子のエステルが肩で息をするリタに視線を向けて口を開いた。

「リタって、もっと考えて行動する人だと、思っていました」
「はぁ……あの結界魔導器(シルトブラスティア)、完璧おかしかったから、つい」
「おかしいって、また厄介事か?」
「厄介事なんて可愛い言葉で、片付けはいいけど」
「オレの両手はいっぱいだから、その厄介事は余所にやってくれ」
「……どの道、あんたらには関係ない事よ」

面倒臭そうに言ったユーリから目を逸らしてリタが呟く。彼女がため息を零したのと同じくして、背後から聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。

「ユーリ・ローウェ〜〜ル!どこに逃げよったぁっ!」

この声は確か、ルブランという声がやたら大きな騎士だったなとハルカは思った。ハルルで会った時に城で襲ってきた変なやつから庇ってくれたので、彼女の中では「いい人」に分類されている。

「呼ばれてるわよ?有名人」
「またかよ。仕事熱心なのも考えもんだな」

皮肉をたっぷり込めてリタが言って、今度はユーリがため息を零す。エステルを呼ぶ丁寧な口調とユーリに出て来いと命令する声があったが、ルブランよりも小さいし気にならなかった。しかし気配は近くにあるらしく、ラピードはつい先刻通って来た方を睨んでいる。アイナもラピードと同じ方角に意識を集中させているようだ。

サク、と小さな音がすぐ近くで聞こえてユーリがハルカの方に近付いて来る。が、彼の目的は彼女ではなくてハルカが未だ握ったままの手であるらしく、少し眉を寄せてアイナと繋いでいた手を引き剥がされた。
ユーリが無理に剥がした手に自分の指を絡めて恋人繋ぎにすると、アイナは彼を見上げる。ごく自然に彼女の額に唇を落としたユーリは、アイナが恥ずかしそうに俯いたのを見て満足げに笑った。

ハルカはユーリを睨み上げ、エステルは顔を真っ赤にして逸らし、ラピードは呆れたように欠伸をする。馬鹿っぽい、と呟いたリタが目を細めてユーリとエステルのふたりを、それぞれ探るように見詰めた。

「あんたら、問題多いわね。いったい何者よ」
「えと、私は……」
「そんな話は後あと」

ユーリが受け流すとリタが舌を打つ。けれど彼女はアイナに宥められると頬を少しだけ染めて、ふいっと顔を逸らしてしまった。リタもアイナの人柄に惹かれているのだろうと思うと、なんだか自分の事のように嬉しくてハルカは笑む。

話が途切れてエステルが安堵したのも束の間、ラピードが耳をピクリと反応させた。素早く顔を動かし、草むらのある一点を睨んで体制を低くする。低く唸って威嚇した途端、彼の睨む先で葉が擦れた。

「うわあぁぁっ!待って待って!ボクだよ!」
「なんだ、カロル……吃驚させないでください」

飛び出たカロルにホッと息を付いたエステルが言う。ラピードは「なんだ、お前か」とでも言うように欠伸をした。
ハルカは全員をぐるりと見回し、改めてこのエフミドの丘に来てすぐバラバラになった仲間が全員揃ったのを確認する。さりげなくアイナの空いている方の隣をキープすると、ハルカは笑って口を開いた。

「やっと全員、ちゃんと揃ったね」
「だな。面倒になる前に、さっさとノール港まで行くぞ」
「えと、どちらに向かえばいいんでしょうか?」
「方角的には……あっちかな」

指さしたカロルの示したのは、道とは言い難いただの獣道だ。しかし、正規の道で騒ぎを起こしてしまった以上、この獣道を行くしかない。進める所まで進まなければ。リタも頭がいいからそれは理解しているらしく、ガックリ肩を落としただけで文句は言わなかった。

「魔物にも注意が必要ですね」
「なぁに、魔物の一匹や二匹、カロル先生に任せておけば万事解決だよな」
「そ、そりゃぁね。結界があれば、魔物の心配もなかったのに……」
「まったくよ。どっかの馬鹿が魔導器(ブラスティア)壊すからほんとにいい迷惑!」

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