回る後輩と止める後輩
清川が、回っている。

「るふふふ〜ふふ〜〜」

回転イスに座り、斜め上を見上げて鼻歌を歌いながら、清川が回っている。
正直、鼻歌は既存の曲なのかその場で清川が考えているのか何なのか全くわからないが、とりあえず、清川が回っている。

「なぁ、永見、アレ、何だ?」

俺は、研究室に来るなり清川のことを欠片も気にせず実験を始めた永見に目の前の疑問を投げ掛ける。
永見は表情を変えずに、回る清川に目を向ける。

「…清川ですね。」
「いや、それはわかってるんだけどさ、……アレ、何だ?」

あれが清川なのはわかってるんだけど、回る清川という現象が何なのかを俺は知りたい。
永見は再びしばらく回る清川の様子を見る。

「……いつもの清川ですね!」

爽やかに言ってのける永見の眼鏡に光が反射した。
確かに回ってるくらいいつもの清川の範囲内かもしれないけどさ、あれはちょっと気になる。
俺の実験スペースの目の前、実験をすれば嫌でも視界に入るところで清川は回っている。

「なぁ、永見。ちょっと聞いてきてくれないかな?」
「え。まぁ、いいっすよ?修論も提出してわりと暇なんで。」

永見はそう言って回る清川の方へと向かう。
そして回る清川の真横で立ち止まる。

「清川。なんで回ってんの?キモいんだけど。」

永見!!!!!!!
永見の発言に内心で俺は絶叫する。
基本的に清川にキモいは禁句だ、キモいからって女の子に振られたことがあるとかで。
永見、もっとやんわり聞いてやってくれよ、頼むから。
荒れるであろう清川を予想して、パシンと自分の頭に手を置く。
しかし、予想に反して、清川はそのまま回転を続ける。

「うふふ〜、キモい?でもいいんだ〜。キモくてもりっちゃんも一緒だから〜。りっちゃんは俺の彼女でキモい仲間なんだ〜。」

どういうこと!!!?
あの永見でさえ眉間に皺をよせたまま清川を見下して固まっている。

俺は急いでスマホを取り出して坂上さんに電話をかける。
確か、昨日は坂上さんと出掛けたはず。
そのときにうっかり告白でもしてフラれたショックで清川は壊れたのかもしれない。

『あ、もしもし?』
「坂上さん!?清川が、坂上さんが彼女でキモい仲間とかなんとか言って回ってるんだけど、昨日何があったの!?」

俺は清川の発言に混乱したまま、電話に出た坂上さんに畳み掛ける。
坂上さんの今の都合を確認せずに本題に入ってしまった、と気づいたときには俺はもうその言葉を言いきっていた。
しばらくの沈黙のあと、電話の向こうから坂上さんの呆れ笑いが聞こえる。

『あぁ、言い方がアレですけど、だいたいあってるんで大丈夫ですよ。』

だいたい、あってる!?
混乱する俺の視界で、昨日からりっちゃんは俺の彼女なんだ〜、と回り続ける清川の回転を、永見が頭を掴んで止めた。

『まぁ、相変わらず迷惑かけると思いますけど、来年度からは私が面倒見るんで、今年度中はうちの祐磨を宜しくお願いしますよ。』

坂上さんのその言葉と、電話口から伝わる若干の照れ笑いが全てを物語っていた。
それじゃあ、また、と切れた電話をしばらく持ったまま固まる。

清川と、坂上さんが、付き合っている……!?

「うふふ〜」
「キモい。」
「キモくてもいい〜」
「救いようがなくキモい。」

目の前の視界には、何か幸せオーラを放ち、気のぬける顔をした清川と、清川の頭を掴んで眉間に皺をよせてその顔を見ている永見がいる。

俺は、スマホを白衣のポケットにしまうと、そんな後輩2人のもとへ向かい、清川の肩を叩く。

「清川、おめでとう。」

卒業後のお前の面倒を見てくれる人がいてくれて、俺は本当に嬉しい。

「清川、あとで俺と酒井さんにアイスの実な。キモいお前を見せられたから。」

永見はそう言い残して、清川の頭を放して自分の実験スペースに戻る。
残された上機嫌の清川は、いーよー、と答えてまた回転を始めた。

あ、結局、俺はこれを見ながら実験するのか。

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