それからのあの2人 [3/3]
「コイツ、彼氏にしたい芸能人ランキングはあの慶明アイドルに負けて2位なんだけど、結婚したい芸能人ランキングだとあの慶明アイドルより上位なんだよ。」
「え、そうなのかよ?」
「そうなんだよ。しかも、コイツの最終学歴知ってる?」
「いや、知らねぇけど…。」
「コイツさぁ、高卒なんだよ。」
「え、マジかよ!」
「そうなんだよ。彼氏には慶明が良くても、結婚となると慶明は高卒に負けるんだよ!」

法宏と清川さんは肩を組んだままテレビ画面の前に立ってそんな話を繰り広げる。
まぁ、座り込みよりはいくぶんかマシではあるよね。
さっきから清川さんの話に飛躍があって訳がわかんないけど。

「それにさ、コイツ、週刊誌によると、この前ドラマで共演した女優と付き合ってるらしいんだよなぁ〜。」
「え!?あの美人で巨乳の?」
「そうそれ!しかもその女優、高3のとき俺を振った女子に笑ったときのえくぼがそっくりだし。」
「わ〜…、そりゃ羨ましいよなぁ。うちの姉貴は巨乳じゃねぇし。」
「おいちょっと法宏!」

私は腕を組んだまま、ちょっと語気を強めにして法宏を叱る。
巨乳じゃないって、何を家族ならではの情報を流してんだよ、このヤロウ。

「そうだぞ弟くん!」

私が法宏を叱ると、清川さんが法宏の方を見て言う。
空気読めないタイプだと思ってたけど、その辺のデリカシーはあるのね、清川さん。

「確かにりっちゃんは巨乳じゃないけど、俺はこの高卒なんか羨ましくない!」
「「そっちかよ!!」」

私と法宏のツッコミがきれいにハモった。
やっぱりこの人、空気読めないしデリカシーのないバカだ。年上だけど。

「東都大は慶明よりキモイし、慶明は高卒に勝てないけど、高卒なんて羨ましくない!
だって、あの巨乳の女優、俺を振った女子に似てる!絶対俺のことキモイって言う!」

清川さんは、電気屋のテレビの前で高らかに語り始める。
ちょっと、清川さん!?って言ってみるけど、聞く耳を持たないから諦めた。

「俺のことキモイっていう女優より、俺はキモイ東都大のりっちゃんがいい!」

おいちょっと待てって。
何を路上で私が良いとか叫びだしてるの!?
それにキモイ東都大ってキモイのは清川さんで、私を巻き込むなって。

「確かにりっちゃんも、俺のメールにキモイとか黙れとかうるさいとか返すけどりっちゃんがいい!
りっちゃんのキモイには愛がある!
りっちゃんのメールはキモイのあとに、研究頑張れとか絶対フォローがある!そんなりっちゃんがいい!
高卒に勝てない慶明よりキモイ東都大だけど俺は東都大でいい!」

清川さんは電気屋の前の歩道でそう言い切った。
法宏と通行人の方々はそんな清川さんを唖然と見つめる。
ってか、恥ずかしいって、色んな意味で。
なんか、ホントに…、恥ずかしいって。マジで。

「あはははっ!!兄ちゃん、面白れぇ!!」

しばらくあった沈黙を法宏の笑い声が破った。
法宏の方を見ると、腹を抱えて笑っていた。

「なんだろ、兄ちゃん見てると、東都大に全然憧れねぇ!!」

むしろ東都大だせぇ…!、と法宏は清川さんを指差して笑う。
それに清川さんは、キモイはいいけどダサいはやだ!、とか言っている。
法宏は、ヒイヒイ笑いながら、どっちも一緒だろ、と言う。ほとんど言えてなかったけど。
しばらくそんなくだらないやりとりをした後、法宏の笑いが収まる。

「じゃあ、俺は先返るからな〜!ダサい東都大同士リア充してろ〜」
「はいはい。高校生は早く帰ってろー」

法宏は鞄を背負いなおして家に続く方へ体を向ける。
それから私は憎まれ口を叩く弟をいつも通りにあしらう。

「俺は偏差値は高くねぇけどダサくねぇS大にむけて勉強すっから早く帰るよ、ダサい東都大生!」

法宏はそうやって悪ガキのように笑って言った。
全く、私に堂々と志望校に向けて受験勉強なんて言うこと、今までなかったってのに。
この変な男のおかげ、なんだろね。なんか気に入らないけど。

そう思って清川さんの方を見ると、法宏に向かって、ダサいじゃなくてキモイ!!と叫んでいる。
ダサいもキモイも、どっちだって一緒だよ。
そんなやりとりをしながらも、法宏は家に向かって帰って行った。

「りっちゃん、りっちゃんの弟くん、面白いね!」
「絶対アンタには負けると思うけどね。」

私はそう言うと、先に向かって歩き出す。
後ろから、待ってよ、りっちゃん!という声がするけど無視しておく。
涼しい夜風に対して顔がほんのり火照っている気がするのはたぶん気のせいじゃない。

「あのさぁ、」

私は歩く足を止めて前を向いたまま言う。
後ろからは予想どおり、何、りっちゃん、という声がした。

「気が向いたから、祐磨って呼んであげる。」

振り返ってそう言うと、祐磨の目が驚くほど輝いた。
そしてあの日のように私の腰に抱き付いてくる。

「やった!ありがとう、りっちゃん!じゃあおまけに俺の彼女になって!」
「あ〜、はいはい。わかったから、離れろって。」

そう言いながら、私は祐磨の頭を思いっきり下に押す。
祐磨は、今、わかったって言った!?、と嬉しそうに言うからさらに下に押す。
それによって、痛い、りっちゃん、ゴメン、離れる、と断片的なつぶやきだけが聞こえる。
しばらく押さえつけたあとに私は頭から手を離す。

わかったって言ったの、別に事故なんかじゃないからね。
そう言ったときの顔なんて、絶対コイツには見られたくないし。

「りっちゃん!今日から俺の彼女!?」

私から離れた後に、祐磨は嬉々としてそう言う。
あー、うん、そういうことだね、とあしらいながら私は祐磨より数歩先の道を歩いた。



『姉貴、俺、あの兄ちゃんならホントに兄貴になってもいいぜ!』

帰り道で別れたあと弟から来たそんなメールには、黙って勉強してろ、と返した。
私もちょっとそう思った、なんてあのバカ2人には絶対教えてやらないから。

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