それからのあの2人 [2/3]
「法宏!なんで逃げるのよ。」

法宏が走り出すと同時に私も走り出して、先ほど歩いて通り過ぎた電気屋の前で法宏に追いつく。
電気屋からは展示品のテレビの明るい声がする。

「なんでって……、姉貴がデートしてたら普通逃げるだろ!!」

しばらく沈黙を挟んだあとに法宏はそう答える。
それから、姉貴がリア充してんのなんて見たくねぇよ、気持ちわりぃ!と続けて私の手を肩から振り払う。
そりゃ確かに法宏の性格からして、私のデートなんて見たくないだろうけどさ、

「法宏、今なんか隠したでしょ。姉ちゃんをなめんなよ。」

あの沈黙の感じからして、法宏はなんか隠してる。
私のデートなんか見たくないってのも本心だろうけど。

「ほら、言ってみなさいよ。」

私は法宏にこちらを向かせて両肩に手を置く。
法宏はうつむいたままなにかぼそりと呟く。
私はそれに、ん?なんだって?と聞くと、法宏は顔を上げて大声で言う。

「天下の東都大生のうえにリア充の姉貴に、予備校で姉貴と比較される俺の気持ちなんかわかるかよ!!」

法宏はそう言うと、再び私の手を振り払って走り出す。
そっか、今、法宏の予備校の終わる時間だもんね…。
私も通った法宏の予備校で何かあったことが目に浮かぶ。

「ちょっと待つんだ!りっちゃんの弟くん!!」

なんだかちょっとカッコつけた風の口調の清川さんが颯爽と現れて法宏の腕をつかむ。
法宏は、なんだよ、離せよ!、と清川さんの腕を振りほどこうとする。

「ちょっと、清川さん、離してあげて…」

法宏は中学くらいの頃から、私との成績の差に悩んできた。
法宏は決して不真面目じゃないし、成績も悪くない。
ただ、法宏より姉の私の方が成績が良かったせいで、ずっと劣等感に苦しんでたみたいだった。
それで、学校に行かなくなった時期もあったけど、その原因になってる私が何をしても逆効果だった。
今また、学校や予備校に通って大学受験に向けて勉強してる法宏を、私が何か言ったせいで悩ませたくない。

「だってりっちゃん、弟くんは勘違いしてるよ。」

清川さんは私にそう言うと、法宏の両肩をつかんで、真っ直ぐに法宏の目を見て真顔で言った。

「一番かっこいいのは東都大じゃなくて慶明大だよ!」

「「は?」」

私と法宏の驚きの声はきれいにハモった。
清川さんは決して凛々しくはない、むしろ気の抜ける真顔で法宏を見つめる。
ってか、清川さん、なんの話してんの?

清川さんは法宏の肩に腕を回して、電気屋の展示品のテレビの前に法宏を連れてくる。
そのままテレビの前に法宏とともにしゃがみこむ。
それから清川さんは一番下のテレビの画面を指差す。

「弟くん。このアイドル知ってる?」
「あぁ、知ってるよ。5人組のアイドルグループの一人だろ?」
「そうなんだよ。それでコイツ、慶明大卒なんだよ。」
「知ってる知ってる。それでアイドルなのにニュースとか出たりしてるよなー」
「そうそう、インテリアイドル代表格みたいな感じでさぁ…。しかもコイツ、彼氏にしたい芸能人ランキング2年連続1位なんだよ。」
「うわ、マジかよ…。」
「慶明大のくせに1位なんだよ、コイツ。」

そうやって法宏と清川さんは歩道の端でしゃがみ込みながら、目の前のテレビ画面のアイドルについて話込む。
歩道の片隅に男2人が小さく体育座りにみたいな感じでしゃがんでボソボソ話す姿は正直かなりシュール。
……あんたらホントに、何やってんの?

「それでさぁ、彼氏にしたい大学ランキングってのもあってさ、それ毎年1位は慶明大なんだよなぁ。普通1位って東都大だろ?」
「あー、気に食わねぇけど、なんか世の中そうだよな。慶明ボーイとか言うし。」
「そうなんだよ!うちの姉ちゃんも東都大と慶明大受けたって言ったら『慶明いいじゃん!慶明ボーイ!』とかテンション上がるしさぁ〜。偏差値的には東都大の方が上なのに世間的に慶明の方が強いんだよなぁ〜。」
「うわ、なんか腹立つなぁ。予備校とかだと偏差値高い方を勧められるってのに。」

2人の話題ははテレビのアイドルから慶明大学の人気の理不尽さに移る。
それに伴って目線もテレビ画面から地面に移っている。
その様子に通りすがりの人たちは、怪しげなものを見る目線を送る。
私はそんな目を向ける通行人に苦笑いをしてから、ため息をつく。
本気で怪しいからね、あんたたち。

「それに引き換え俺はさぁ、高3のとき卒業式のあとにずっと好きだった子に告白したんだよ。東都大受かったから自信をもってさ。そしたらなんて言われたと思う?弟くん。」
「え、何て言われたんだよ、兄ちゃん。」
「『ゴメン、なんかキモイから無理』って言われたんだよぉ〜!」

清川さんは隣に座り込む法宏の両肩をつかんで揺らす。
ちょっと、それ法宏、転ぶからね!?
案の定、法宏はバランスを崩して後ろに手をつく。

「何だよキモイって!なんで慶明はかっこよくて東都大はキモイんだよぉ〜!!」

バランスを崩した法宏に構わず、清川さんは法宏の両肩を揺さぶる。
法宏は、わかったから!どいてくれよ兄ちゃん、と揺さぶられながら抗議している。
ってか、清川さんの言われたキモイって絶対に東都大関係ないと思うんだけど。

「ちょっと、清川さん、流石にどいてあげて…!」

私は法宏に向かって暴走する清川さんを、法宏から引き剥がす。
あー、私から清川さんを引き剥がした酒井さんもこんな気分なのかもね。
清川さんは私の手に引っ張られてゆっくりと立ち上がる。
それから目線の先に偶然入ったテレビ画面に、はっと目を見開く。

「弟くん、コイツが彼氏にしたい芸能人ランキング2位なんだよ…!」

清川さんは再び法宏の肩を組んで、法宏をそのテレビ画面の前に連れていく。
え、この話、まだやるの?

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