それからのあの2人 [1/3]
坂上さんって彼氏いるの?
ちょっと頼まれてくれないかしら。


そんなメールが宮野さんから送られてきてから何か月が経ったっけ?

何事かと思って、話を聞くために待ち合わせてみたら、いろいろ予想外でびっくり。
まず、宮野さん、博士課程3年の先輩を連れてくるし。
それから頼みってのがその先輩、酒井さんからで、申し訳ないけど、うちの後輩とメル友になってくれないか、って言われて、意味がわからなかったし。

で、ゆっくり話を聞いてみたら、その後輩、清川さんは修士課程2年の困った人らしい。
何でも、定期的に彼女がほしい発作が起こって、何も手につかなくなるらしい。
何それ?って思ったけど、学部卒業のときの卒業論文は、酒井さんと他の先輩方が女の子を偽ってメル友になることでなんとか書かせた、っていうからホンモノだった。
それで今回は、修士論文を書かないといけないうえに、隣の研究室の友達が彼女できたとかで発作を起こし、宮野さんの友達の雪乃を紹介してもらおうとしたら、雪乃がアメリカで彼氏と同棲してるって宮野さんから聞いて撃沈したんだと。
それでどうしようもなくなって、その清川さんに私を紹介したいって話だった。

ちょっと変わった人をあしらうことくらい慣れてるし、宮野さんとも仲良くなってみたかったから、私はその頼み事を引き受けた。

それからというもの、


りっちゃんりっちゃん〜
今朝、目玉焼きに醤油かけすぎてしょっぱかったけど研究室に行くよ〜
りっちゃんは目玉焼きには醤油派?ソース派?


ってくだらないメールが頻繁に来るようになった。
それに私は、


塩胡椒派。

朝食の味に関わらずちゃんと研究室には行けよ?
行くだけじゃなく、ちゃんと研究して酒井さんに迷惑かけるなよ〜


って感じで返したんだけど。
あと、


りっちゃん〜
俺、今週、いいデータ出たよ!
週末、俺とデートしない??


ってメールが来たときもあったなぁ。
酒井さんから、デートの誘いとかあっても断ってくれればいいから、って言われてたから、


そういうのは修論できてからね。
いいデータとれたなら、いい修論に向けて頑張んなよ〜


って返したら、しばらくして酒井さんから電話がかかってきて、

『坂上さん?ごめん、申し訳ないんだけど、研究室来てもらえる?清川が発狂しちゃってさ、』

って小声で早口で言う声が清川さんの発狂する声にかき消されながら聞こえてきた。
何やってんの、この人たち、って思いながら研究室に向かったの覚えてる。

研究室に行ってみてドアを開けたら、その瞬間に、

「りっちゃぁぁぁぁん!!」

って声とともに、白衣姿の清川さんが私の腰に抱き付いてきた。

「あ〜、はいはい、とりあえず離れようか、清川さん。」

って私が肩を押しても、なかなか離れなくて困ってたら、

「清川〜〜!!!」

って言いながら酒井さんが現れて、清川さんを引き離していった。
それから、今のはセクハラだからな、と清川さんを叱る酒井さんを見ながら、宮野さんと目線を合わせて互いに苦笑いしたなぁ。


そんな感じで過ごした今年度も、もう3月。
そして今日は、工学部応用化学科の修士論文発表の日。
清川さんも無事に発表を終えて、修士課程を修了できるらしい。
というわけで今日が、私と酒井さんと宮野さんによる、清川さんの卒業作戦の最終日になる。

「今日はりっちゃんと初のデート、楽しかったよ〜」
「あ〜、それはどうも。」

夜の道を歩く私の隣には、私とそんなに変わらない目線の高さの清川さんがいる。
普通の女の子より長身でヒールを履いてる私の身長は、男性の清川さんとたいして変わらない。
今日はずっと、修論が終わってから、ってあしらってた清川さんとの初デート。
デートって言っても、正式に付き合っている訳じゃないし、2人で遊びに出かけるってだけ。
酒井さんには、坂上さんのおかげで修論も書けたし、もう十分だからデートまでしなくてもいいよ、って言われたけど、修論書けたらって約束だった訳だし、今回のデートに応じた。

デート内容はごく普通で、映画見てから喫茶店でお茶するって感じだった。
まぁ、相手がこの清川さんだから、普通じゃなかったけど。
映画館に持ち込んだ炭酸飲料のせいで、ラストシーンでげっぷが止まらないし。
喫茶店で、コーヒー用のミルクがうまく開けられず爪で開けようとするし。
…結局私が開けて清川さんのコーヒーに入れて、さすがりっちゃん!、って言われたけど。

「ねぇねぇ、りっちゃん。俺のこと祐磨って呼んでくれないの?」
「は?」

突然、よくわからないことを言い出した清川さんの顔を見ると、純粋な目で私を見ていた。
これは、この人、素で言ってるわ。

「あ〜、いつか気が向いたらね〜」

そう言って適当にあしらって清川さんより数歩先を歩くと、後ろから、りっちゃん〜、という清川さんの声がする。
なんともまぁ、相変わらず元気な人だよね。

「げ、姉貴がデートしてる…!?」

数歩だけ後ろに置いてきた清川さんが私に追いついたころ、後ろからそんな聞きなれた声がした。

「え?法宏!?」

後ろを振り返るとそこにいたのは、学生服を着た私の高2の弟、坂上法宏だった。

「あ、やべ。」

法宏はそう言うと、両手で口を押えてから、Uターンして私から逃げるように走り出した。

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