「乱菊に、会いたいなあ」




ぽつり、葉桜になったそれに語りかけるよう呟く。



「乱菊に、生きとってほしかった」

「…」

「ボクが、死ぬはずやったのに」




向日葵色のふわふわの髪も、空のように青い瞳も、もうここには存在しない。



乱菊さんは、死んでしまった。


死んで、しまった。



愛する男の手によって、その命を絶った。




「どないする? イヅル。ボクんこと殺す?」

「いち、まる…」

「自隊の隊長殺されて、仇討たん副隊長ならそれは副隊長やない」




遠回しに、自分を殺せと言っているのはすぐに分かった。

けれど。




「乱菊さんを殺してしまって、乱菊さんがいない世界で生きるのはきっとお辛いでしょう。けど、僕は乱菊さんから隊を頼む≠ニ仰せつかってます」




乱菊さんが討伐に行ってから知ったことがある。

総隊長自ら、僕の元へ来てくださった。





「市丸ギンに――――…」




「市丸ギンに、吉良イヅルが勝ったら、市丸ギンは、=v








「貴方様は隊長に戻る」

「…!」

「乱菊さんが、残した最後の命令です」




総隊長に頼み込んで、隊長全員を説得して。

それこそ隊長になった、就任式のその時から。




「今更、ボクが隊長?」

「今更です、隊長に戻ってこられても困ります。けど乱菊さんは、市丸隊長が三番隊の隊長だと思っていたんです」




乱菊さんが、思っていたこと。

乱菊さんは、雛森くんや檜佐木副隊長や、ましてや僕のために三番隊の隊長になったわけじゃない。

それは、僕たちの自意識過剰だ。





乱菊さんの本当の狙いは、市丸隊長を、隊長に戻すこと。


他の死神が三番隊隊長に就任する前に自分が隊長になって死んでしまえば≠サれも叶う。




「どうされますか、隊長」

「……今更言うてんのに、イヅルはボクんこと隊長言うんやね」




自嘲する隊長の背中を真っ直ぐ見つめる。

この方は何か勘違いされている。




「今更と言うのは護廷隊全体の気持ちであって僕の気持ちではありません」

「…イヅル、」

「僕は、僕が支えていた隊長は、市丸隊長。貴方様しか居られません」




乱菊さん≠ニ仕事をしていたあの時間は副隊長と言うより友人のような、対等の関係だった。




「……ええよ、先戻っとき。」

「…」




――――嗚呼。






「隊長命令≠竅Aイヅル」

「…お帰り、お待ちしております」




――――この人は。





結局、一度も顔を合わせることなく、僕はその背中に一礼して踵を返した。







「乱菊、」



小さく隊長が呟いたのが聞こえた瞬間。


強く風が吹いて、何故か無性に振り返りたくなって。






幻覚だろうか。



桜吹雪≠ェ僕と隊長の間を遮って。




桜色にしては、赤い。

赤すぎる色が混ざって舞い散っているのが見えた。






――――嗚呼、やっぱり。




なんて、
僕は妙に納得してしまったのだ。











乱菊さん、市丸隊長。



おやすみなさい。






20120831