――――そして今。





乱菊さんが好きだった桜がたくさん並ぶ場所に。


目の前に乱菊さんを殺した張本人がいる。





「市丸、たいちょ…」




まるで、隊長だった時のように。

やはりこの人を呼ぶのに隊長∴ネ外、考えられない。



「イヅル、久しぶりやね」




市丸隊長は、振り返らない。




「…どうして、」

「乱菊、三番隊の隊長さんやったんやね。灰猫と相性合わへん言うてたのに」

「乱菊さんの実力は隊長が1番ご存じのはずです」

「せやな、乱菊は元々実力あった。ほんま、強うなったわ」




声はいつもと変わらない、むしろ嬉しそうなのにその背中は、どこか寂しそうで。



自分の手で、殺したくせに。




「どうして、」

「どないした?」

「どうして、乱菊さんを! 乱菊さんは市丸隊長が好きで、隊長がお作りになられた干し柿をあの縁側で食べて、隊長と同じ袖のない隊長羽織を羽織って、今も隊首室は隊長が使っていたときのままなのに、どうして貴方は…!」




どうして。

どうして。

どうして。

どうして。






「乱菊さんと隊長は、想い合っていたはずではなかったのですか…!!」






生まれて初めて、市丸隊長に対して幻滅する。




好きだった、乱菊さんと隊長が並んで歩く姿を後ろから見るのが。
あの金と銀ね一対が仲良さげに寄り添って歩く姿が。



いつもは張り付けたような笑みの隊長が、唯一乱菊さんの前では柔らかく微笑む。

いつもは豪快に笑う乱菊さんが、唯一隊長の前では可愛らしく無邪気にはにかむ。




僕は。

そんな2人を見るのが、好きだったのに。




「しかも、2人でよく来ていたこの桜の場所に。どうして今さら!」




ここは、2人が良く来ていた場所。



どうして今さら、貴方様はたった1人で寂しそうに花弁の散った葉桜を見ているのか。


そんな背中をするのなら、どうして殺してしまったのですか。

















「いち…っ、市丸ギンは!!松本乱菊を愛していなかったのか!!!」








――――…あの日々は、全て偽りだと言うのですか…?






20120823