仕事があるからと、先に帰った吉良。


俺と阿散井はもう少し時間に余裕があるからその場にいた。




「なあ阿散井」

「なんすか、先輩」

「…吉良のやつ、副隊長になってしばらくしてから和菓子作るようになったんだろ?」

「ああ、らしいっすね」

「市丸にも、同じことしてたってことだろ? と言うか、正確には乱菊さんに%ッじことして」

「駄目ですよ、先輩」




鯛焼きの最後の1口を口の中に放り込んだ。



「下に就く者は上に立つ者を敬い、信じ、命をかけて後ろについていくのが副隊長なんすから」

「……そうか」



隊長が変わってもその姿勢はかえない。仕事にはストイックな吉良らしい。

だからと言って、乱菊さんに市丸と同じようにするのは自分が辛いに決まってる。



「あいつ、良い嫁になりますよ」

「こら、男だぞ」

「じゃあ主夫」

「仕事どうすんだ」

「…んじゃあ良い夫ってことで」



阿散井は適当に返事をするが、意味が分からなくもない。

確かに、吉良は良い亭主になるだろうな。
ネガティブだけど。



「ま。日番谷隊長がいる以上、雛森は勝ち目ねえだろうけどな」

「阿散井、お前毒舌だな」

「あざーす」

「誉めてねえ」



口の中で転がる飴玉を噛み砕く。

甘い香りがさらに口いっぱいに広がった。



「そういや、知ってますか乱菊さんが三番隊を選んだ@摎R」

「はあ?」

「朽木隊長が言ってたんすけど、今回の乱菊さんの就任ってどこに所属するのか決まってなかったらしいんですよね」

「そんなの!」




そんなの、市丸がいたから。


そう言いそうになって、自分で傷付く。最悪。

乱菊さんの目には、昔からあの野郎しか映ってないのに。そんなの分かってたはずなのに。



「五番隊に就任しなかったのは雛森のため」

「そりゃあ1番重症だろ、雛森が」

「で、九番隊に就任しなかったのは」



と、そこで1度切って。

それがやけに緊張を煽って、心臓を鷲掴みにされるってのはこのことだろうと理解する。



「隊長の帰りを待つ、檜佐木副隊長を見たから。」




ひゅっ、と息を飲んだ。




その瞬間、俺の世界は音と言う音が消えた。

日常会話と言わんばかりの阿散井の横顔がこれでもかと脳裏に焼き付いた。






「だから、三番隊を選んだらしいっすよ」




阿散井の言葉は、耳に入らない。





「(やっぱ惚れるわ、乱菊さん)」









20120817