「松本、」 「何ですか? たいちょー」 「…元気か?」 「? この通り元気ですよ?」 そうか、とそれだけ言って俺は黙った。 松本が空元気に見えて仕方ねえ、いや実際空元気だ。 ――――…三と十の合同剣術練習。 申し込んだのは吉良だった。 「乱菊さんと話して頂けませんか」 断らなかったのは松本のことが心配だったからとしか言えない。 今、護廷十三隊公認の仲が良い松本と吉良。いつも松本の隣に立つ吉良が松本の異変に気付かないはずがない。 隊員の稽古を2人並んで眺めながら、ぽつりぽつりと声をかける。 「隊長、五番隊の仕事こっちでも引き受けますよ?」 「それするくらいなら檜佐木の方を手伝ってやれ」 「もう断られた後ですよー、九番隊には」 修平、あれで結構有能ですから。 ふふ、と苦笑気味で柔らかな笑みを溢す。 俺はそれに疑問を持つ。 ――――松本、お前そんな笑い方するやつだったか? もっと豪快で、楽しそうに笑うのがお前だったような気がするのは俺だけか? 「(…あ、)」 ふと視界に入ったのは1人の隊員。 「剣先揺れてんぞ!」 「剣先揺れてるわよ!」 「……え?」 「……、」 見事に被った。 隣に立っていた松本の声と。 2人で顔見合わせて、 「……あははっ」 先に吹き出したのは松本だった。 「…考えることは同じか」 「隊長の下に何年いたと思ってるんですかー」 くつくつと、喉がなるのを堪えて顔を背ける。 「松本」 「はい?」 「お前が副隊長で良かった」 「何ですかいきなりー」 止まらない笑い。目の縁に溜めた涙を脱ぐって松本は俺の前に立った。 「あたしも、隊長の下で働けて良かったです」 ああ、松本だ。 髪と同じ、向日葵みたいな笑顔を向ける目の前の死神。 それは間違いなく俺が副隊長に選んだ、松本乱菊と言う死神だ。 空元気なのは、仕方ない。隊長になって思うこともあるだろう。考えることも増えたはずだ。 ――――こいつが、大変なときは必ず助けてやろう。 本気でそう思った。 20120814 |