「ほんとは、イヅルが隊長になっても良かったのよ?」

「…いえ、僕には。」




仕事も一区切りついて、縁側で干し柿を食す乱菊さん。

その隣で、僕はお茶を淹れる。乱菊さんと僕の、2人分。



松本さんを乱菊さん、と名前で呼ぶようになったのは、隊長に就任されてしばらく経った後のこと。

他の隊長がいる時以外は隣を歩くようになって、プライベートでも隣を歩くことが増えた。



乱菊さんが就任してから、日番谷隊長もよく顔を出すようになった。多分、乱菊さんが心配で。



そう言えば、十番隊の副隊長は、乱菊さんの後は十番隊の三席が引き継いだと聞いた。
日番谷隊長も乱菊さんも信頼していた人だから業務に支障は出ないように思う。




「そうよね」



淹れたお茶に口をつけて、乱菊さんは自身の向日葵色の髪を指先で弄ぶ。


ふわふわなその髪は日に当たって輝いて、頬に落ちた睫毛の影と白い肌と薄紅色の唇を引き立てる。
死神より、女神の方が今の乱菊さんには似合っていた。



「イヅルは、隊長の席を空けておきたかったんでしょ?」

「……いいえ。乱菊さんが隊長になって下さって良かったと思っています」




――――そうだ、乱菊さんが隊長だ。



今この時、隣に座るのがあの銀色ではないかと錯覚する。銀色だったら良かったと、思う自分がいる。






後ろに立たないから。
名前で呼ぶから。

乱菊さんが隊長だと思えなくなっている自分がいる。




そうだ、思い出せ。

院生時代に助けて頂いて以来、尊敬して尊敬してやまなかったあの銀色が。





三番隊の副隊長として、死神として、吉良イヅルとして。





市丸、隊長がここにいないことを認めない自分を、認めてはいけない。







20120812