参。






「鬼灯さま、これなんかどうですか?」

「ああ、悪くないですね」

「!」



小さくガッツポーズ。よっしゃ。


鬼灯さまとは仕事だけでなく、休みの日でも一緒に行動する。補佐だからスケジュールは基本的に同じ。たまに、違うときがあるけど。



今日は久しぶりの休みで、15時がすぎるくらいまで寝て、それから鬼灯さまの新しい帯を買いに2人で外に出た。

鬼灯さまは、身だしなみはきちんとされる方だけど、お召し物にあまり興味がないようで。

黒の着流しはとても素敵で、この人はきっと髪の色と同じ黒が1番似合う。



でも、いつも同じ帯なのがどうしても気になって。



「知景はセンスが良いですね」

「そうですか?」

「気に入りました。代わりに、貴女も何か好きなものを選びなさい」

「え?」



当然、と言わんばかりの顔をなさった鬼灯さまは、財布を取り出してちらりと目をやった。

視線の先は、女物の装飾品。帯締めからかんざしまで幅広い。



「貴女は人のことを言う割に装飾品を持っていないでしょう」

「高価なものを買うのはどうしても、」



気が引ける。もちろんお給料は頂いているのだけど、貧乏性なのか高価なものに興味が、ない。


ああ、これじゃ鬼灯さまと変わらない。



「……」



苦笑いで誤魔化すと、小さく息を吐き出した鬼灯さま。手に持っていた帯を私に渡して、装飾品の並ぶそこの前に立って、じ、っとそれを眺める。



「知景は、赤が似合います」

「え…?」

「発色の良い赤。紅もそれにしたらどうですか」



細い指が、1本のべっ甲かんざしを手にの取る。装飾は、発色の良い赤。

す、と耳元にもっていかれたそれに一瞬息が止まる。




私の中で黒と赤は、鬼灯さまの色だ。


それは、私にとって、聖域のようなものだった。



口紅だって、ピンクベージュよりも明るい色は絶対つけない。

けれど、鬼灯さまが手にとったそれは、鬼灯さまの、赤。




「いけません、」

「?なぜです。似合いますよ、赤」

「赤は、」



鬼灯さまの色だから、なんて恥ずかしくて言えるわけがない。

一度口に出してしまったものの、続きが言えなくて口ごもる。



「赤は?」

「……わ、私には敷居が高いです」

「構いません。すみませんこれいただけますか」

「え!!」



私の手にあった帯と一緒に、あの簪が出される。



「貴女が選んだわけではありません、私からの贈り物なら何も文句は言えないでしょう?」


有無を言わさない声に、恐る恐る頷いた。


鬼灯さまの、赤。

聖域への恐れ多さと、一緒の色を身につけられる喜びで慌てふためく。



「不満ですか」

「いえ、嬉しいです」

「でしょうね」



渡されたかんざしを、力いっぱい握り締めた。



「(鬼灯さまの赤…!)」







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