弐。





「知景、行きますよ」

「はーい」

「…」

「どうしましたか、鬼灯さま」

「貴女、来た頃と大分性格変わりましたよね」

「そりゃあ、慣れましたから」



にこりと微笑んで見せると、微妙な顔をした鬼灯さまは「まあ、いいです」と言って踵を返す。その1歩後ろを歩いた。



――――私が死んだ日、私は鬼灯さまの補佐になった。



この地獄の幹部と言う立場にいる鬼灯さまは、文字通り多忙な方だった。


有能だから、仕事が多くできる。そうすれば自然とこなす仕事の量は多くなってご飯を食べる時間や寝る時間を削って仕事をすることになる。

有能ならではの多忙さだった。




それを、私なんかが補佐になったところで改善できるのか不安だった。




何より仕事を覚えるまでこの人の負担になることが怖かった。

それは、鬼灯さまの傍で仕事を覚え始めたその日にはもう分かったことなのだ。


仕事だけじゃない、まず着物なんて着れないのだ。そこから始まった。


女の人に教えてもらったものの、着るのに時間がかかるし、帯が綺麗に結べなくて鬼灯さまが帯を直してくれることもしばしば。

これだけで時間が押してしまう。




真面目で、弱音なんて吐かない人だから私が仕事を覚えるまで何の文句も言わずに教えてくれるだろう。それが、逆に怖かった。


いつか倒れるんじゃないかって。



そう思ったら、自然といつもの倍の速さで仕事を覚えた。あれから80年、それなりに、仕事できるようになった。と、自負している。



その間、仕事とオフのスイッチも切り替えられるようになった。


性格が変わったと言われるのは、そのせいだ。

仕事の時ほど人間味がないことはない。そうでもしなきゃやってられなかった職種だ。




「今日は、三途の川の視察に行って、それから書類整理を。今日はあまり仕事が少ないので早くお休みになってください」

「そうですか」

「はい」



この仕事は、好きだ。





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