壱。
「……地獄?」
――――ここは、地獄らしい。
私は、死んで地獄に落ちたのだと。鬼、が教えてくれた。
私は、死んだ。そして地獄へ。
それだけ理解できれば、あとは受け入れられた。
「(まあ、)」
当たり前だ。
私は、地獄に行くに値する。
連れて行かれた先は閻魔大王のところ。ここで言い渡された地獄に落とされるのだそうだ。
「……」
妙に、冷めていた。
仕事をしている時の、私。オフに切り替わらない。
地獄に落ちたのだと認識した時から腹をくくっているから、冷静でいたいだけなのかもしれない。
「えーワシが貴殿に下す判決は、」
「……」
「………え、これ罪状…?」
書類に目を通したらしい閻魔さまは私の顔と書類を見比べて、首を傾げる。
「罪状、じゃないよね、これ。鬼灯くんこれ見てよ」
「何ですか、私に貴方の仕事を回さないでください」
「だって、これ」
閻魔さまは隣にいた小柄の鬼(閻魔さまに比べればの話であって、180越えだとは思う)に書類を見せる。
無表情に、それに目を通した鬼は「あー…」と。
「これむしろ天国でいいんじゃないですか」
「だよねだよね、おかしいよね」
「何かの手違いでしょうか」
「そうかもしれないな、向こうと連絡取らなきゃ」
とんとん進む話に、少し焦る。
「……地獄でいいです」
「え?」
「天国なんて行けません」
天国に、行けるほど立派な人生を歩んでいない。
「決まりは決まりです、貴女は地獄に行てもらっては困ります」
「……行けません」
「まあ、気持ちも分からなくはないよね」
閻魔さまもそう言って困ったような顔をする。理解は、あるらしい。
「…本当に、行かなくて良いんですか」
「いいです」
困りましたね、と少し考える素振りを見せた鬼は、ちらりと閻魔さまを見てまた書類に目を通す。
「なら、ここで働きませんか」
「…え?」
働くとかあんの、ここ。
「最近、人手が足りなくて困っていますし、貴女は天国に行きたくない。こちらとしては貴女を刑に処すわけにはいきませんから、丁度良いかと。いいですよね、閻魔大王」
「うん、まあ天国行きたくないって言うんだから仕方ないよね」
「どうでしょう、ここで働いてみては。もちろん賃金も出ますよ」
「……よろしくお願いします」
天国には、絶対行きたくない。
鬼は、鬼灯と名乗った。
閻魔さまの第一補佐官、と言うすごい人らしい。
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