006
腕と首なら欲望。
そう言ったのはフランツ・グリルパルツァーだったか。
先輩の機嫌が悪かった。
気づいてる人がいるのかは分からないけど、とにかく機嫌が悪かった。
久々に訪れた桐皇はぴりぴりしていて、場違いなところに来てしまったと気が引けてしまって帰ろうとしたのだが。
「すーちゃん!」
「桃井ちゃん、」
桃井ちゃんに肩を掴まれた。
「見学してて」
「え、でも、」
「お願い…!」
必死に引き留められて、首を傾げつつもその場に止まる。
11月の体育館は寒い。
沢山着込んできたけど、足なんてタイツか2枚履きだけど、でもやっぱりひんやりする。
でも練習に励む部員や桃井ちゃんたちマネージャーは動き回ってるから暑そうだなあ。
「……」
先輩が、1人苛立っているのが目立つ。
指示もプレーもいつもより若干荒い。でも誰もそんなことに気づいた素振りはない。
何でだろう、気づかないふり?
でも桃井ちゃんが呼び止めたのは多分先輩が原因だ。
桃井ちゃんは気づいてるけど他が分かってないってこと…?
て言うか何に怒ってるんだろう、あの人がこんなに感情を表に出すのは珍しい。青峰くんみたいだ。
しばらくして休憩になると、先輩は真っ直ぐ私のところに来た。
「栖条」
「はい、なんですか?」
苛立ちの、気迫なんて慣れてる。
赤司くんや青峰くんは特に酷かったから、今さら先輩の声でビビったりしない。
「……今まで何しててん」
「ちょっと京都に」
そう、この前の休みは久しぶりに赤司くんに会いに行った。京都に。
その前は黄瀬のところ。
その前の週は黒子くんのところだ。
1ヶ月くらい、ここに来れてなかった。
「ふうん」
「………」
あれ、?
これ、もしかして、もしかしなくても、
「(私に怒ってないか?)」
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