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あのウィンターカップから半年が経った5月。
私は2年生になった。
先輩は、進学した。
先輩が唯一似合っていると言ってくれたミントグリーンのプリーツスカートを履いて、私はストバスのできるところに来た。
「自分、それやとバスケできへんやろ」
後ろからかかった声。
直に声を聞くのはいつぶりだっけ。
私からする滅多にしない連絡はメールばっかりで、先輩からの連絡は文章より声を聞きたいからと電話だった。
それでも忙しいときに連絡したら悪いからとメールを使い続ける私の心情を察してか、怒られることはなかったけど。
「いいんですよ、私観る専門ですから」
振り返ると、お洒落な格好をした先輩が立っていた。
片手にバスケットボールを持って。
「自分、ちょっとは出来るやろ」
「初めてボール触ったの、前の秋ですよ?」
「ええねん、ワシが指導したるわ」
「いかに厳しいか部活見てたら分かるので遠慮しときます」
実は。
1度も触っていないバスケに触れた。
運動神経が悪い私にバスケはかなり難しくて、本格的のものなんて出来るわけがない。
「運動神経悪いん青峰から聞いたことあるわ、スポーツテストオールDやろ?」
「先輩、肩震えてます。殴んぞ」
スポーツテスト、小中高とオールDの気持ちが分かるか!どーせAなんでしょ!
頭良くてスポーツもできて顔も良いのになんで性格悪いんだか…。
まじもったいない。
吠える私に、先輩は楽しそうに腰を曲げて私と視線を合わせる。
めっちゃ馬鹿にしてるんですけどこの人!
「思いっきり笑うてええの?」
「そう言う意味とちゃうわ!あ、方言移った…!」
「アホや!ワシ、アホの子嫌いやないでー?」
「頭悪い訳じゃねーし!あんたが頭良すぎるだけやし!」
「せやからアホの子やろ?」
「うっぜええええ!!!」
爆笑する先輩の腰辺りをグーで殴る。
所詮スポーツテストDの力なんてたかが知れているけど。
「そのスカート、よう似おうとるやないか」
「!!…そりゃ、似合うって言われたんで」
急に大人しくなった先輩にちょっと怯む。
いきなりそんなこと言われても、困る。てか照れる。
「自分のそう言うとこ、好きやわ」
「ありがとうございます」
「そこは、私もですやないんか」
「私がそんなこと言うように見えます?」
「見えへん」
「じゃあ言うな」
ぽすん、とグーでもう一発。
けたけた笑う先輩には敵わない。
「さーて、どっか行こか」
「この前話した喫茶店が良いです」
「栖条の奢りで?」
「割り勘です」
「嘘やて、ワイが奢ったる」
「え、やだ!」
「そこは女らしゅう奢られとき」
「えー!」
渡されたボールを両手で抱えて先輩を見上げる。
抗議したけど、いつもの胡散臭い笑顔でかわされた。
――――…今吉先輩と後輩の話。
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