009
――――…ウィンターカップには内緒で行っていた。
誰にも何も言わずにキセキが出る試合は全て見た。
最初に黒子くんと青峰くんがぶつかった。
何も桐皇だけに行っていた訳じゃない。誠凜にも海常にも秀徳も陽泉も洛山も福田総合も。
キセキとは全て、関わりがあった。
だから黒子くんと青峰くんの試合は、息が出来なかった。青峰くんに勝って欲しかったけど、敗けを知らなきゃいけないと思ってた。
結論から言えば、負けて欲しかったのだ、青峰くんに。昔の青峰くんに戻って欲しかったのだ。
バスケが大好きだった青峰くんに。
今でも大好きって知ってるけど、楽しいバスケじゃない。
好きだけど楽しくない、その気持ちが分かるかと怒鳴られたこともある。
私には分からないけど、そこは黒子くんと桃井ちゃんと同じ気持ちだった。
けど、けどさ。
今吉先輩には、勝ってほしかった。
3年生だ。これが、最後だ。
高校最後の、大会だ。
――――なのに、負けてしまった。
『すーちゃん、行ってあげて』
試合終了後、桃井ちゃんからそのメールをもらった。
バレてたのかと。そんなことを思う前に走った。
「先輩!」
「…栖条」
桐皇の控え室には先輩しかいなかった。
「…負けてしもた」
「!…、はい」
「最後の最後で、負けてしもた」
「はい」
「誠凜は強いわあ」
「…はい」
「それでも、最強は青峰やねんで」
「はい」
「……うちが、最強や」
「はい」
今吉先輩の中で、最強は青峰くんで、最強は桐皇なのだ。
それは絶対、変わらないのだ。
先輩の前で膝立ちをする。覗き込むなと言うように、抱き締められた。
顎を先輩の肩に預ける。後頭部を強く押されて、距離がさらに短くなった。
「……」
「……」
ぽんぽん。
背中を一定のリズムで叩く。
抱き締める力が強くなって、静かにその行為を続けているとこっちの涙腺が緩む。
「…ッ、」
先輩には、負けてほしくなかったなあ。
結局、先輩が泣いたのかどうか、分からない。
- 9 -