episode.5 「…」 あの男子を見てから一週間後。 また、あの絵が美術室の隅に置いてあった。 今度はあの男子はいなくて、部室に来たのも私が一番最初。 あの時は人だかりでじっくり見えなかったあの絵も、今は誰にも邪魔されずに見える。 置いてあると言うことは、見ても良いと言うことなんだろう。 「……っ、」 綺麗な、滲み方をする絵だった。 淡い色の優しい世界に、少女と色とりどりの花。 ――――酷く、惹かれた。 「きれい、」 「ありがとう」 「ッ!」 がたん、と机同士をぶつけてしまった。 誰もいないはずなのに、返事がしたのだから驚くはずだ。当たり前のこと。 勢いよく振り返ると、そこには男子がいた。 多分、それはあの時の男子で。 「こんにちは」 「っ、ぁ…、こん、にちは」 人見知りは急に直るわけでもなく。めちゃくちゃどもってしまったけどなんとか言葉を返す。 先週、逃げてしまったそれ。 忘れ物して、と言って机の中からファイルを取り出す男子。 「この絵、あなたが…?」 「うん、俺が描いた」 ふんわりと。 この絵みたいに綺麗に笑う人だった。 「初めまして、幸村精市です」 「はじ、めまして、有坂律…、です」 ――――これが、幸村くんとの出会いだった。 2013 03 05 ← → back top |